10-2-16.日常と現実
キャサリンは黒板に文字を書きながら説明を始めた。ラルフが全く黒板を使わないので、学院生たちは新鮮な気持ちで授業に集中していた。ラルフの授業に慣れていて、ノートを持ってきてない一部の生徒がヤバイと焦っていたのは勿論秘密だ。
「まず、魔獣の定義について説明するわね。皆は夏休みにあった事件の魔法を使う動物が魔獣だと思ってるかもしれないけど、魔獣は【魔法を使う、姿形が普通の動物でない獣】の事よ。」
生徒の手が上がる。
「はい、バルクどうぞ。」
「うっす。えっと、普通の動物の姿してたら魔獣じゃないって事っすよね?ってなると、街魔通りで暴れた魔法を使う動物達はなんなんだ?」
「やっぱりそこが気になるわよね。だから魔獣に関する授業はしたくなかったんだけど…しょうがないっか。」
学院生達は期待の眼差しでキャサリンを見る。彼女もそんな眼差しを受けて何も話さない程、人でなしではない。
「一言で言ってあの魔法を使う動物達については魔法街が全力を挙げて調査中よ。魔獣という存在は認識されていたけど、動物が魔法を使うっていうのは有り得ないとして考えられてたから。」
「え…じゃぁ有り得ない事が起こったってのか?」
「そうなるわね。…バルクは敬語を使えるようになりなさい?」
クラスの何人かがクスクス笑いを漏らす。バルクは口をとんがらせて後頭部で手を組んで足をプラプラさせる。その姿を見てキャサリンは質問が終わったと判断したようだ。
「続けるわね。魔獣の姿形は例えば…そうねぇ、分かりやすく言うと翼が生えた馬とかね。一般的にはユニコーンで有名かしら?そういう魔法を使う生物が魔獣と呼ばれているわ。つまり、姿形が普通ではない生き物ね。あと、1番の違いは知性よ。魔獣は人の言葉を理解して操るわ。」
また生徒から手が上がる。
「あなたは…タム=スロットルね。どうぞ。」
「魔獣が人の言葉を操るって事は話す事が出来るんすよね?友達になった事ある人とかいるんすか?」
「また変な質問をするわね。」
キャサリンは困り顔だ。
タムは普段から飄々とした態度でクラスにいる為、ほとんどの生徒が彼と話したことが無かったりもする。後期に上位クラスに編入してきたからというのもある。ただ、無口で近寄り難い訳ではなく、誰とも話さなくても別に良いという雰囲気がそうさせているのだ。
(あいつ、話したら結構面白そうだよな。)
龍人は漠然とそんな事を思いながらキャサリンが何と話すのかを待つ。この話題は龍人にとってもかなり興味を唆られる内容だ。
「そうね…。言い方はちょっと変だけど友達になる人はいるわ。ただ、友達というよりも召喚獣という形で契約を交わすっていう方が正しいけどね。この中にもいるでしょ?召喚獣を使える子。」
「ん?変っすね。魔獣と契約して召喚獣として使えるって事は、神と契約して使う召喚神とか、精霊と契約して使う召喚精霊と同じ括りになりますよね?そうなっと、魔獣と神、精霊って似たようなものって事ですか?姿形が違うだけで。」
「いい所を突くわね。その通りよ。神や精霊が人間に敵対心を持っているとは必ずしも限らないのと同じで、魔獣も人間に対して敵対心を持っている事の方が珍しいわ。勿論そうでない魔獣もいるけどね。特に魔獣の中でも知性が低い下級の魔獣とかだと、見境なく人を襲ったりもするわ。ただ、基本的にそういう魔獣には知性が高い上級の魔獣がリーダーとして統率しているケースが多いから、結果的に人間を襲うことはほとんど無いと言えるわ。」
「へぇ~そんなんすね。なんか意外っす。」
タムは如何にも感心しましたという顔で頷いている。
質問が終わったと判断したキャサリンは説明の続きを再開する。
「魔獣に関しては今説明したのでほとんどよ。何か他に質問はあるかしら?」
「はい!なのですわ。」
元気良く手を挙げたのはルーチェだ。
「はい、ルーチェどうぞ。」
「そもそもの疑問なのですが、神は私達の住む世界とは別の世界にいるとされていますわ。そして、精霊は私達と同じ世界に。ただし、その姿は常時は見ることが出来ないのですわ。では、魔獣はどこにいるのでしょうか?」
「…。」
キャサリンはルーチェが質問を述べた後も言葉を発さず、鋭い視線をルーチェに送る。対するルーチェは頭に?マークを浮かべて首を傾げるのみだ。
約1分程そんな時間が続き、ついに耐え兼ねたのかキャサリンが口を開く。
「そうね…。魔獣は普段は見ることが出来ないとか、別の世界に住んでいるとかは無いわよ。ただ、人間が住んでいる場所とは別の場所に住んでいるから普段見る機会が少ないだけね。」
「そうなんですの。キャサリン先生は見たことあるのでしょうか?」
「……。えぇあるわよ。貴方達よりは長く魔法使いとして仕事をしているからね。そんな簡単に魔獣に会う事も出来ないし、そんなに気にかける必要はないわ。……はい、この質問はここまで。他に何か質問はあるかしら?」
キャサリンがルーチェの質問でイライラしている事を雰囲気で感じ取っていた学院生達は手を挙げたりはしない。下手な質問をするとラルフのように雷の鉄槌を喰らいそうな気がしたのだ。キャサリンは誰からも手が挙がらないのを確認すると、満足そうに頷く。
「魔獣の説明は以上ね。じゃぁ、続いて幻創武器について説明するわよ。」




