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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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10-2-15.日常と現実


部屋の中ではネネがのんびりと珈琲カップを傾けていた。


「あれ…ネネさん片付けてくれたんですか?」


「私のお客様が散らかしたんだから、もてなした私が片付けるのは当たり前でしょう?それ位の分別はあるわよ。」


ネネは特に表情を変えることもなく淡々と答える。窓から差し込む該当が顔を部分的に照らし妖艶な雰囲気を演出している。


「それ、他のメイドさん達にも言ってくださいよ。毎回殆どの片付けをやらされてるんです。」


「あら。どのメイドも部屋の掃除は自分でしてるわよ。貴方が掃除してるのは共用スペースだけのはずよ。廊下とか、受付とかね。」


「そういえば…そうですね。って事は、どうにもなんないのかー。」


ネネは目を細める。咎めるというよりも微笑むが近いか。


「いいじゃない。周りから頼られてるって事なんだから。コツコツと続ければそれが信頼に繋がるのよ。」


「そんなもんですかね。」


「ええ。…そうだわ。ゴミがまだ捨てられてないから、それだけ捨ててもらってもいいかしら?あそこのゴミ箱よ。」


「…はーい。」


遼は部屋の隅に置かれたゴミ箱を持つ。すると、背後に人の気配。大人の匂いが鼻をくすぐる。ネネの顔が後ろから遼の顔の横に近付いた。


「遼君。貴方の求める答え…私は知ってるわよ。」


「えっ…?」


遼は思わずバッと振り向く。それだけの勢いで振り向いたのならネネの顔に激突しそうなものだが、ネネは離れた椅子に座っていた。


「…?どういう事ですか。俺の求める答えって…。」


「ふふ…。何だと思う?」


(俺が知りたい事…?双銃の刻印…いや、それよりも…俺が知りたいのは…!)


「姉さん…」


ネネの人差し指が遼の唇に触れる。悪戯っ子のような笑みを浮かべ、ネネは薄く口を開いた。


「遼ちゃん。貴方はそれを口にしてはいけないわ。それを求めるのは自由よ。ただ、それを求めている事を他人に知られてはいけないわ。」


ネネは遼が言おうとしたことを本当に分かっているのだろうか?しかし、それを問うことすらも躊躇う程にネネは遼の瞳を真っ直ぐ見つめていた。


「………。」


言葉が出てこない。自分が求めるもの…求める事は正しい事なのだろうか。遼の中には常にその思いが渦巻いていた。しかし、あの存在を聞いた時から遼はそれを見つける事を心に固く誓っていた。例え、誰かに罵られようとも。例え、周りから人々が離れて行こうとも。遼はそれでもいいと思っている。


「ふふふ。顔が怖くなってるわよ?あまり考え過ぎないのがいいわ。貴方が求めるものは、いつか必ず貴方の前に現れるわ。」


ネネは椅子から立ち上がると背中越しに手を振って部屋から出て行く。


「あ、言い忘れてたんだけど、まだ厨房の食器が洗い終わってない筈だから。ちゃんと洗ってから帰ってね。」


バタン。


扉が閉まり、遼は部屋に1人残された。


「…マジ?」


遼のバイトはまだまだ終わらない。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


週明けの街立魔法学院1年生上位クラス。クラスは執事遼の話題で持ちきりだった。朝から色々な人から執事の話題を振られまくった当の本人は教室の机に突っ伏している。


「ねぇ、遼君大丈夫かな?」


レイラは心配そうな目で遼をチラチラ見ている。


「まぁ、大丈夫じゃない?朝から皆に執事について聞かれまくってたからなぁ。今は珍しくて騒がれてるけど、その内それが当たり前になっていつも通りに戻るでしょ。」


「でも、当たり前になる迄は色んな人に聞かれたりして疲れちゃうんだよね。なんか可哀想だな…。」


「まぁ、そこは我慢だね。そもそもなんであの店で働いてるのかが未だに謎だし。聞いても教えてくれないから、よっぽどの理由があるんだとは思うけど。」


「確かに不思議だよね。」


「それさ、私の予想なんだけど…。」


龍人とレイラの会話に混ざってきたのは火乃花だ。


「ラルフが何かやったんじゃない?上手く遼君をハメて、あそこで働かざるを得なくなったとかありそうよね。」


「…確かに。ラルフならそれ位平然とやるわな。」


実際、火乃花の予想はほぼ正解である。魔法協会南区支部の地下にある実験施設の情報を入手する対価が遼が執事としてバイトする事だったのだから。とは言え、一応、ある程度は遼の同意の上なのでラルフにハメられたという程でもない。まぁ、ほぼハメらた様な流れではあったが。


さて、クラスの面々の反応はと言うと、

上位クラスの男子は…

「メイドと一緒に働けるなんて羨ましすぎる!」

上位クラスの女子は…

「遼君の執事姿を見てみたい!」


という反応で…朝からそんな応対ばかりしている遼の心中は察するに余りある。


ホームルームの時間になり、教室に入ってきたのはラルフ。…ではなくてキャサリンだった。

街立魔法学院教師キャサリン=シュヴァルツァー。抜群のプロポーションを持ち、赤縁眼鏡が特徴の女性教師だ。その美貌とクールな雰囲気から「踏まれたい」と密かに思う男子学院生は数知れない。また、自由奔放にセクハラを繰り返すラルフに鉄槌を下す姿も頻繁に目撃されていて、女子学院生からは「何かあったらキャサリンの所に逃げればなんとかなる」と人気?があったりもする。


上位クラスの生徒は達はラルフではなくキャサリンが入って来た事に戸惑い、最初はざわめくが教壇に彼女が立つのと同時にすぐに静かになった。これがラルフだったら全然静かにならないのは言うまでもない。


「みんなおはよう。今日はラルフが別の仕事で学院に来ることが出来ないから、代わりに私が授業をする事になったわ。よろしくね。」


キャサリンはニコっと笑うと資料の準備を始める。彼女の笑顔を見て数人の男子から小さい溜息が零れる。


(やっぱキャサリンって人気あんだな。外見はめっちゃ綺麗だけど、性格がキツイからなぁ。)


龍人は教室の後ろ端の席から教室を眺めていた。どうやらキャサリンの美貌に見惚れているのは男だけではなく、女も居るらしい。


(ん?)


良く良く観察してみるとレイラもポーっとキャサリンを見つめていた。


(やっぱあんだけ美人だと憧れの女性みたいになるのかね。)


「はい。準備出来たわ。午前中の座学だけど…あら?あいつ全然まともに授業してないじゃない。魔法街の歴史はボチボチだけど…魔法式関係は全然手付かずなの?」


最後のセリフはルーチェに向けたものだ。忘れている方も多いかも知れないが、一応ルーチェと龍人は学級委員だったりもする。…ほとんど学級委員の仕事はないが。


「はい。と言うよりも、魔法式って簡単にいうと魔法発動の手順だから今更勉強する必要がないって言ってましたわ。魔法式が必要になるのは魔法陣を使う魔法だけで、それは授業で取り上げるものではなくて、覚えたい奴が自分で覚えろー。的な事を言ってましたわ。」


「はぁ…。間違ってはないけど、本当にあいつは実践的な事しか教えてないのね。」


キャサリンは額に手を当てると首を振る。予想を遥かに超えた自由な授業が展開されていたらしい。


「それなのに魔法街の歴史をちゃんとやってるのが不思議ね。まぁそしたら、このメモ通りに授業をしましょう。えっと…。」


ここでキャサリンの動きが止まる。


「あいつの考えている事が本当に分からないわ…。」


溜息を付きながらキャサリンは黒板に2つの単語を書き出した。


魔獣

幻創武器


チョークを指先でクルクルと回しながら、反対側の手を腰に当てたキャサリンが言う。


「かなりコアな内容だけど、説明するわよ?」


まるでポスターの1枚にありそうなポーズに見惚れる男子多数。ポスターの題名は「美人教師」「美人秘書」…ベタではあるがそんな感じだろう。

キャサリンによる上位クラス初の座学が始まった。


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