10-2-12.日常と現実
ラルフを先頭にして上位クラスの面々はあなたと私の萌え心。に入店する。
出迎えるのは如何にもメイドですといったコスプレをしたスレンダーな女性。
「お帰りなさいませご主人様!あーラルフちゃんじゃないですかぁ!また来てくれたんですねー?」
「おうよ!また来たぞ?」
「ふふふ。今日は誰にしますかぁ?新人のイイ肉感の子がいますよ。」
イイ肉感の辺りでラルフの目付きが変化する。
「それいいな…。……ってちゃうわ!今日はアイツの仕事振りを見に来たんだよ。ってか見せに?まぁそういうことだから。今日は誰に付いてんだ?」
「あらぁ残念です。いいサービス用意してたのにー。また今度指名してあげてね?」
「それはもちろんだ!任せとけって。」
ラルフはウインクすると親指を立てる。似合わない動作をしても、女性関係での動作になると様になる(決して良い意味ではない)のはラルフの貫禄?だろう。
メイドはパラパラと紙を捲る。
「ありました。今日は…あら、ネネに付いてるみたいです。」
「お、ネネか。…こりゃあ楽しそうな感じじゃねぇか。よし、皆行くぞ?」
ラルフはメイドに前金を渡すと店内を進み始めた。
「え、行くってどの部屋とか分かんのかよ?」
「もちろんだ。俺は常連だぞ?しかもネネの部屋は固定だからな。」
バルクの質問に対して、さも当然といった態度で答えたラルフは1つのドアの前で止まる。
「よし、開けるぞ?」
何時もより大分濃いニヤニヤを浮かべながらラルフはドアを開いた。
中に居たのは髪をポニーテールに纏めた女性。メイド服の上からでも相当スタイルが良い事が伺える。
「お帰りなさいませご主人様。…あら、後ろに居る方々はどなた様でしょうか?」
「こいつらは俺の教え子だ。社会勉強の為に連れてきたってトコだな。」
「あらあら。ご主人様の教え子さん達ですか。それはきっと大変な学生生活なんでしょうね。」
ポニーテールのメイドはクスクスと笑う。
龍人達はウンウンと頷いた。一般に普通の教師というイメージと比べたら、ラルフは邪道も邪道を突き進む教師だろう。…ただ、教えている内容は確実に濃い実践的なものであり、それを生徒達も認識しているのが救いではある。
「さぁさぁ、それでは皆様こちらのソファーにお掛け下さいな。お飲物をお持ち致しますね。」
龍人達は言われるがままにソファーに並んで座り、飲み物を頼む。
「はい。それでは少々お待ち下さい。」
ポニーテールのメイドは部屋に備え付けられている電話でドリンクの注文を伝え、戻ってきた。
そして、床に膝を着き手を揃えて膝の前に着く。
「ご挨拶が遅れましたが、私は本日皆様のお世話をさせて頂くネネと申します。不行き届きな部分もあるかと思いますが、精一杯尽くさせて頂きます。何卒宜しくお願い致します。」
ネネは頭を深々と下げてお辞儀をする。あまりにも丁寧な態度に学生の面々は戸惑い気味だ。
「またまた珍しく丁寧だな。俺だけの時はもっとラフなのによ。」
ラルフの指摘にネネは顔を上げると優しい笑みを浮かべる。
「初めてのお客様にそんな適当な態度は取れません。しかもそのお客様方が常連様の教え子なんですから。」
「それは分かるけど、調子狂うんだよなぁ。」
「ふふ、分かりました。それではこれからはいつも通りにしますね。さて、これから皆さんで何をなさいますか?」
全員が顔を見合わせる。そもそも、この店が何をする店なのかを把握していない時点で、発言する事が出来ない。
ルーチェが全員の思いを代弁して口を開く。
「あのー、この店って何をするお店なんですの?私たちラルフに何も教えてもらってないので、イマイチピンと来ないのですわ。」
「あら。それじゃあさっきの質問は困っちゃいますね。この店は何をして頂いても大丈夫ですよ。但し、卑猥な事を覗きますので、それだけはご了承下さいね。」
全員の視線がラルフに集中する。
「おいおい。俺だってそれ位のルールは守れるぞ?」
「でもこの前…」
「いやー!喉が渇いたな!」
何かを言おうとしたネネを遮ってラルフが大きな声を出した。何かしらの前科があるのが確定する。最も、それを追求するつもりは誰にも無いが。
ここで部屋のドアがノックされる。タイミングとしてはバッチリである。
「失礼します。」
ドアが開くと共に聞こえてきたのは男性の声だった。黒い燕尾服を着こなし、左手のトレンチの上にはドリンクが乗っている。
その執事は部屋の中に居る人達を見て凍りついた。




