10-2-7.日常と現実
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街立魔法学院グラウンド。今日も2対2のチーム戦が行われていた。この授業が始まって今日が丁度14日目。つまり、2対2チーム戦での授業最終日だ。いつもはグラウンドでバラバラに広がって戦っていたのだが、最終日の今日に限っては戦う人以外は観戦という形を取っていた。横からの流れ弾が飛んでこない事を考えると、戦闘に集中する事が出来る訳だ。
既に10試合が終了し、その様子を観察していたラルフは珍しく真面目な顔で紙に何かをメモり続けている。
「よし、そしたら次は龍人、クラウンペアと…そうだなぁ、火乃花、ルーチェペアで行くか。」
面白い対戦カードが組まれた事で上位クラスがザワつく。全戦全敗の龍人、クラウンペアと全戦全勝の火乃花、ルーチェペアの対戦。普通に考えればどちらが勝つのかは明白なのだが、それでも期待させる理由があった。
それは最初の4日以降、龍人とクラウンは何故か1対1で戦い続けていたのだ。つまり、2人がペアで戦うのを見るのは全員が久しぶりなのだ。勿論当の本人達を含めて。
「おし!クラウンやってやろうぜ。」
龍人は掌を拳で打ち鳴らすと勢い良く立ち上がる。
「うらぁぁ!おいラルフ!何故先に龍人の名前を呼んだ!クラウン、龍人ペアだろうがぁぁ!?俺様がチームリーダーなんだから俺様の名前を先に呼ぶのが基本だろう!?」
「ん?あぁわりーわりー。クラウン、クラスの全員にお前の強いところを見せつけてやれ。な?」
ラルフは面倒臭そうにクラウンを煽てる。…効果は抜群だ。
「…ふっふっふ!はーはっはっ!ラルフ!分かってるじゃないか!そうだ俺様の強さを見せつけてやる!よーく目の穴かっぽじって見てやがれ愚民ども!」
「目の穴かっぽじったら何も見えないじゃないの。」
火乃花が小さく突っ込むが、当然の如くクラウンには聞こえていない。気合い充分の堂々?とした態度でクラウンはグラウンドの中央へ進む。
「龍人くん大変ですわね。私だったら初日で心が折れていますわ。」
「いや、初日で心は折れたよ。あんなに負けまくったの久々だったしね。まぁそれでも、そのお陰で成長出来た気がするしな。油断すんなよ?全力で行くから。」
龍人はニッと笑うとクラウンの下へ歩いて行った。
「ルーチェ。この前の龍人君、クラウン君ペアだと思わない方がイイかもね。クラウンはともかく龍人君がちょっと底知れない感じがするわ。」
「そうですわね。ずっと2人で対戦をしてたのも気になりますわ。警戒しつつ一気にクラウンくんを倒すのが良いかと思いますの。」
「そうね。まずはその作戦で様子をみましょ。」
火乃花とルーチェは頷きあうと対戦相手が待つグラウンド中央へと進む。
4人が対峙する。
クラス全員が見守る中、ラルフの声がグラウンドに響き渡った。
「試合開始!」
真っ先に動いたのはクラウンだった。
「俺様の爆弾の肥しにしてやる!」
クラウンは突進しながら両手を広げる。すると、手の延長線上に爆弾が一気に出現。両腕を上から斜め下へ、腕が交差するように振り下ろすと延長線上に連なった爆弾が鞭の様にしなりながらルーチェと火乃花を襲う。
(ちょっと、突っ込むの前と全然変わっってないじゃないの。こんなのだったら楽勝に終わるわよ。)
火乃花は炎鞭を両手に出現させ下から交差するように爆弾を迎え撃つ。焔鞭では無く炎鞭。出力を抑えたのは果たして正解か。
炎鞭と爆弾鞭が空中で衝突し、爆弾が連鎖するように爆発した。広がる爆炎と爆煙。視界が一気に煙に覆われた所でルーチェが動いた。
「火乃花さんいきますわ!」
ルーチェは光の剣を周りに出現させてクラウンの居た辺りを引き裂くべく射出した。
煙を引き裂き光剣が飛翔する。手応えは…無い。
「そんな攻撃で俺様を倒せると思うなよ!」
煙の中から飛び出してきたのはクラウンだった。性懲りも無く両手から爆弾鞭を伸ばしている。
「あんたこそ…そんな魔法で倒せると思わないことね!」
火乃花は炎鞭を幻魔法で10本に増やしクラウンに向けて放った。上下左右前方から襲いかかる炎鞭。火乃花の予想ではクラウンの実力ではこの虚実の混ざる攻撃に対抗出来るだけの魔法を使う事は出来ない。とすると、彼が取り得る手段は魔法壁を展開する事。そして、それこそが火乃花達の狙いでもあった。ルーチェは火乃花のすぐ後ろで極太のレーザーを放つ準備をしている。未だに煙の中から出て来ない龍人が襲撃して来た時に対応する為、そして魔法壁で動きが止まったクラウンを一気に倒すため。
しかし、事態は火乃花の予想を大きく裏切った。
ジジ…
一瞬クラウンの姿がノイズの様にブレる。クラウンはニヤッと口元を歪めると姿を消した。炎鞭は誰も居ない空間を虚しく引き裂くのみに終わる。
「え…!?」
ザッ
背後から聞こえる音に振り向くとクラウンが爆弾鞭を振り下ろしていた。
(どういう事ですの??)
ルーチェはレーザーを細分化し、ショットガンの様に爆弾鞭に向けて放つ。レーザーに貫かれた爆弾が爆発し、再び爆煙が火乃花とルーチェを包み込もうと迫る。
そして、クラウンの猛攻はまだ止まらない。爆煙を振り切るようにして低姿勢でルーチェを目掛けて一直線に疾走して来たのだ。
2人は目配せすると、ルーチェが魔法壁、火乃花が物理壁を各々の最大強化状態で前方に出現させた。
ジジ
またクラウンの姿がブレる。
(今のは…?)
(またブレましたわ。)
火乃花とルーチェは違和感を覚える。そして同時にその正体に気づいた。そう、目の前に居るのは…。
クラウンの姿がまたブレ、煙の様に霧散。そこから姿を現したのは龍人だった。
「くらえ!!」
龍人の右手に握られているのは銀色の夢幻。その周りには高圧の電流がバチバチと付帯していた。振り下ろされた夢幻と防御壁、物理壁がせめぎ合う。龍人は更に魔法陣を展開し、電気の出力を強化していく。
(ここで反撃をしないとマズイわ…!)
火乃花はルーチェに目配せすると物理壁の制御を受け渡し、炎鞭に魔力を込めて焔鞭へと昇華させた。
「これで!…え?」
焔鞭で龍人を弾き飛ばそうと振りかぶった時だった。背後から感じる巨大な魔力。慌てて振り向くと、一直線に突っ込んでくるクラウンの姿があった。上に挙げた両手の先にあるのは超特大の爆弾。
(今までのは全てこの為!?)
慌てて振りかぶった焔鞭の方向をクラウンに変える。ルーチェは龍人の攻撃を防いでいるために、満足に動くことが出来ない。となると、火乃花がクラウンの攻撃を防ぎ切るしか無かった。クラウンと火乃花達距離は残り5m。
(これなら間に合うわ…!)
焔鞭がクラウンを吹き飛ばす。…筈だった。焔鞭がクラウンの体に当たると、霧のように霧散してしまう。
「はっはっは!どうだこれが俺様の力だ!下僕龍人の力を最大限に利用し、俺様が最後に華麗なるトドメをさす!これこそ最高のステージだぜい!」
声がしたのは…上だった。
パッと見上げるとすぐ真上にクラウンの姿があった。もちろん超特大の爆弾も一緒に。
「吹き飛べえぇ!」
爆弾が振り下ろされる。
「ちょっ!お前それだと…」
龍人の叫び声が爆音に掻き消される。そして、4人は特大の爆発に呑み込まれたのだった。
「コホッコホッ。はい、今の勝負は引き分けなー。最後の最後で自爆とか勘弁してくれよ。流石に焦ったぞ。」
微妙に髪がチリチリに焦げたラルフが目の前の地面に倒れているクラウンに声を掛ける。
「ふっふっふ!あれ位の覚悟がなければ強い事の証明にはならないからな!」
「いやいや。爆発に指向性を持たせて火乃花とルーチェだけを吹き飛ばすって話だっただろ?なんであーゆー爆発にしたんだし。」
龍人がむくれながら責める。
「そんなの簡単な事だ!最後に立っているのは俺様の1人で十分!それに、爆発に指向性を与えるなどというちまっこい作戦はとっくの昔に忘れていた!」
堂々と言い切るクラウンに龍人は絶句し、頭をがっくし下げる。
「あんたって…本当にバカなのね。」
火乃花は腕を組みながら呆れたように立っている。
「俺様は馬鹿ではない!まぁ馬鹿でも良いが、そんな馬鹿に倒される寸前だった火乃花は超馬鹿だ!」
「あんたねぇ…。」
火乃花の眉がピクピクする。今にもおでこ辺りに怒りマークが浮き出そうだ。
「火乃花さん、相手にしないほうがイイのですわ。どっちにしても、あの特大の爆弾は凄かったですし。」
「ほほう。ルーチェよ。お前は俺様の凄さが分かってるじゃないか!下僕2号にしてやる!」
「慎んでお断り致しますわ。」
ニッコリと否定されてもクラウンは揺るがない。
「つまらん!まぁ、いつでも下僕2号にしてやるから気が向いたら声をかけるがいい!」
「あのさぁ、ぶっ倒れながら言ってもダサいだけだぞ?それにいつの間に俺が下僕1号になったんだよ?」
「俺様とチームを組んだ時だからだ!」
「げっ。」
「はいはい。言い合いは終わりだ。4人とも観戦側に行ってくれ。次の試合に移るから。」
「まて、まだ俺様は…」
何かを言いかけたクラウンはラルフの転移によって観戦席に飛ばされていった。
「本当にクラウンはうっせぇな。ほら、お前らも行けー。」
ラルフは手をヒラヒラと振りながら何かをメモっている。
「じゃ、行くか。」
龍人の言葉にルーチェと火乃花も頷きながら観戦席へ移動したのだった。




