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Colony  作者: Scherz
第四章 其々の道
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10-2-6.日常と現実



「おい。何故お主がここに居る?」


スイは出来る限り柔らかく声を掛けたつもりだったのだが、火乃花には全然伝わらなかったようだ。


「なによ。私がここに来たことに文句でもあるわけ?」


キッと横目で睨まれる。


「む…。いや、そういう訳では無いのだが…。」


歯切れが悪くなるスイの態度に火乃花が噛み付く。


「何か言いたいことがあるんなら言いなさいよ。それ位聞く程度の度量はあるわよ?」


「いや、文句とかは無いのだが。ただ気になっただけと言うか…。」


火乃花に責められてスイは火乃花の顔を見ることが出来ない。端から見ると完全に怒る女性と反省する男性の図だ。


「あの…注文はいかがなさいますか?」


沈黙が挟まれた所で、2人のやり取りを見守っていた店員がら申し訳なさそうに割り込んできた。


「あ、えっと…オススメは何かしら?」


「そうですねぇ。隣のお客様がお召し上がりになっている羊羹はオススメですよ。」


スイがちょっとだけ囓った羊羹を一瞥すると、火乃花は迷いなく頷く。


「じゃ、それでお願いするわ。」


「はい、かしこまりました。それでは少々お待ち下さい。」


店員は丁寧にお辞儀をすると別のお客様対応に向かって行った。スイは沈黙を保ったままである。


(このまま無言でいるのも気まずいわよね…。)


話題を思案する。


「ねぇ、あんたって普段はあまり誰とも話してないけど、ペア戦だと結構連携取れてるわよね。」


火乃花が選んだのは、学院での話題だった。普段スイと話しているわけではないので、趣味も知らないとなっては共通の話題が学院しかないので、当然と言えば当然か。


「…ペア戦ではもう1人の動きをしっかりと観察しながら戦えば連携が取れないなどという事はあり得ない。」


「ふーん。遠距離タイプの遼君の動きを観察しながら近距離で戦うなんて、相当難しいんじゃないの?」


そう、スイは遼とペアを組んでいるのだ。互いに積極的に声を掛けに行った訳では無く、何故かチーム決めの時に上位クラスの集団から離れた所に転移させられた為に、隣に居た遼と止むを得ずペアを組むことになってしまったのだが。


「それは確かに…。」


火乃花の指摘は最もである。遠距離タイプが近距離タイプの動きを観察しながら戦うのは、比較的簡単な部類にはいる。何故なら、近距離タイプの人間が常に視界に入るようなポジション取りをしていけばいいからだ。しかし、それが反対になってくると話は違う。近距離タイプが戦っている時に遠距離タイプは基本的に後方に居る事が多い。近距離タイプの人間が近距離における戦闘のエキスパートで、常に遠距離タイプの人間が視界に入るようなポジション取りを出来れば話は別だが…。しかし、近距離同士の戦闘では立ち位置が入れ替わることが殆どだ。

それでは、スイはどの様にして遼の動きを観察しているのか。近距離~中距離での戦闘がメインの火乃花としてもかなり興味がそそられる。火乃花はスイの出す答えに期待する。


「はい、お待たせしました。羊羹でございます。ゆっくりとお召し上がりくださいね。」


2人の会話が一旦途切れたタイミングを狙ったかのように店員が羊羹を持ってきた。火乃花は目の前に置かれた羊羹を見て感心してします。


(この羊羹…すごい綺麗な光沢だわ。漂って来る香りも上品だし。)


スイは相変わらず唸っているので火乃花は羊羹を食べることにする。

ナイフ型の楊枝で羊羹を切る。程よい弾力が楊枝を持つ手に心地良い。丁寧に切った羊羹を持ち上げ、口に入れた。その瞬間、上質な甘みが火乃花の味覚を支配した。


(何これ…。凄い美味しいわ。)


「スイ君、あなたいい店知ってるのね。この羊羹凄く美味しいわ。」


「うむ。ここの羊羹は南区で食べれる羊羹で1番だからな。全ての羊羹を食べ歩いた我が保証する。この上質な甘み、噛んだ時に顎に伝わる主張し過ぎない歯応え、飲み込んだ時に通った所を癒すかのような感覚。ただ忠実に基本を守り、基本を極めたからこそ出せる味わいだ。」


羊羹の話題になった瞬間に雄弁にかたりだしたスイを見て火乃花は苦笑する。最初は驚いたものの、そんなに羊羹が好きなのかと思うと笑いが込み上げてきてしまった。


「羊羹が好きなのね。ちょっと意外だけど、可愛いところもあるじゃない。」


可愛いところ。この言葉にスイは過剰に反応をしてしまった。ビクっとか、羊羹を落としたとかは無いのだが、顔が赤く変化してしまったのだ。照れたのか?


「う、うむ。羊羹は我の大好物だからな。」


スイは小さく深呼吸をすると、羊羹を口に入れた。甘みが口に広がり平常心が戻って来る。しかし、いつもより羊羹を味わえていない事には間違いない。何故かフワフワと宙に浮いたような気分でいるスイだった。


(スイ君って案外面白い所があるのね。ま、仲良くなれるかは別問題だけど。)


スイが口を開く。


「さっきの質問だが、残念ながら明確な答えを言うことが出来ない。いつも戦っている時はほぼ感覚だからな。探知型結界を張って戦闘をしている訳でも無い。ただ、ここでこう来る筈だ。という直感に従って我は動いている。そして、それが外れたとしても問題がない立ち回りをするように心がけている。」


「なるほどねぇ。そうなると…普段から相方の闘い方を観察している必要があるって事ね。んーむずかしいわ。」


「他人は所詮他人。自分の思い通りに動いてはくれないからな。」


「ホントよねぇ。」


2人の会話は何故か続いていく。案外相性がいいのか?

ともあれ、最初に2人の間に流れていた気まずい雰囲気は全く無くなっていたのだった。




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