10-2-1.日常と現実
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街立魔法学院では2対2のチーム戦が始まってから、1週間が経とうとしていた。
「あーもう駄目だ!全然勝てる気がしない!ついでにクラウンと連携が取れる気も全くしない!」
グラウンドに倒れこみながら叫ぶ龍人に、遼と火乃花が近寄ってくる。
2人共やれやれといった表情と、同情するような表情をいい具合に混ぜた顔をしていた。
人ごと感が否めない。
「龍人君…元気出しなって。最初よりは負けるまでの時間が長くなってるじゃない。まぁ、結果的にボロボロのボロ負けだけどね。」
「ちょっ…火乃花!それ全然フォローになってないよ?…まぁ、龍人アレだよ。クラウンは1人で突っ込むし、誰かを倒せそうになると横から手柄を横取りしようとしてくるし、龍人と連携を取る気もまったく無さそうだし、むしろ負けてる理由は全て龍人が原因って考えていると思うけど…龍人が頑張ればなんとかなるよ。…多分。」
龍人は薄~い目で火乃花と遼を睨みつける。
「2人共全くフォローになってないぞ?むしろ心が折られそうだし。」
「ま、現実そうだし、実際フォローし切れないレベルで負けまくってるからね。」
火乃花がしれっと言葉の槍を投げる。
そう。
龍人とクラウンのコンビはチーム戦の授業を1週間行って全戦全敗なのだ。しかも、全ての試合が5分以内に決着がついている。
「マジさ、俺はどうしたらいいんだろうね。クラウンと一緒だと勝てる気が全然しないわ。あーあ。」
秋のよそ風が肌に気持ち良い。
「おい龍人。そんなトコで現実逃避してんじゃねーって。」
声の主は腕を組みながらニヤリと笑みを浮かべるラルフだ。
「ラルフ…。そもそも何で俺とクラウンを組ませたんだよ?相性最悪だぞ?」
「分かってないな。ったく、コレは言わずに気付いて欲しかったんだが。いいか?龍人、お前は上位クラスの生徒の中で1番オールマイティーに立ち回りが出来るんだよ。属性【全】って事を考えたらそうだろ?夏合宿でのお前はチームを引っ張るか、攻撃役として活躍したよな。主にチームメンバーにサポートしてもらう形でだ。」
龍人は夏合宿の模擬戦争の時を思い出す。
(言われてみれば…確かにそんな感じだったかな?)
「いいか?現状で攻撃役と指導役はボチボチ出来るって事だ。だが、龍人がサポート役をしている所はほとんど見たことが無いんだよな。で、実際にバルクと組ませてみたら全然出来ないだろ?つまりそういう事だ。」
ラルフの言葉を聞きながら考え込んでいた龍人はムクっと起き上がる。
「なるほど。つまり、もし本当の戦争みたいなのに巻き込まれた時にチームの中にオールラウンダーが居るのと居ないのでは大きく戦況が変わるって事か。そんで、俺はそれが出来るかもしんないのに出来てないのか。」
ラルフはニヤリと笑う。
「そういう事だ。もっと極端に言えば、チームメンバーの1人が倒れた時に、残ったメンバーで各役回りを補う必要があんだよ。そうなる事を考えたら全員が最低限のポジションをこなせる必要があんだ。」
「で、そんな深い事を考えて俺とクラウンを組ませたと?」
「おう。めっちゃ曲者だから全然連携取れないだろ?はっはっは!」
何故か自慢げに笑うラルフにちょっとだけ殺意を覚える龍人。
(絶対こいつクラウンと俺を組ませて楽しんでやがる。…こうなったら全力でクラウンと連携を取れるようになってやるし。)
龍人はトンっと立ち上がると3人に向けて片手を上げた。
「じゃ、俺はクラウンと遊んでくるわ!」
そのままグランドを出て行こうとするクラウンの元に走り去って行った。
「ま、なんとなく上手い具合に焚きつける事くらいは出来たかな?」
火乃花が眉を顰める。
「ラルフ…あんたさっきの全部でっち上げだったの?」
「ん?まさか。全部本当だぞ?まぁ、バルクとか他の奴でも良かったんだけどな。ただ、仲が良い奴と連携が取れてもしょうがないからな。敢えて龍人に対して対抗心がめっちゃ強いクラウンを当てたんだよ。」
「なるほどね。ラルフって案外色々考えてるのね。」
ラルフが大袈裟なリアクションを取る。
「おいおい!案外ってのは酷くねぇか?俺も学院生を受け持つ教師だからな。それ位は当然考えてるよ。」
「なるほど。教師として当然の事をしているのに、それ以外の行動が激しすぎて教師に全く見えない…ってトコかな。」
ラルフの後ろで遼がボソっと呟く。そして、口に出してしまった事に気づいてから顔を青ざめさせた。
「あ、今の無しで!」
「ははぁん。遼。お前…あの事言うぞ?」
遼がピクリと反応する。より一層青ざめ、まるで生理的に無理な物を目の前に突きつけられたかの様な顔をしている。
(あら。遼君…ラルフに弱味でも握られてるのかしら?)
火乃花はその内容が気になってしまう。
「ねぇ、それって…」
「あ!!!」
遼が突然大声を上げた。思わずラルフと火乃花はビクっとしてしまう。
「俺、用事があったんだった…!遅刻したらマズイ!!」
「お、おう。因みに誰との約束だ?」
「キタル先生っす!ちょい本当にマズイ…。じゃ!」
遼は後者に向けて全力疾走をして行った。あっという間に豆粒になり、姿が見えなくなる。
後に残された火乃花はポカンとするしかない。
「ラルフ。キタル先生ってそんなに怖いの?」
ラルフは頭をポリポリする。
「まぁアレだな。広義的な意味で言えば怖いわな。遼の無事を祈るか。」
「ふぅん。」
火乃花はイマイチ想像が出来ないようで、釈然としない表情のままだ。
「さて。」
ラルフが火乃花の方を向く。
「?」
火乃花は何事かと首を傾げた。
「グラウンドに残ったのは俺達2人だけだ。誰も見てないし、そろそろそのたわわに実った…。」
ラルフが最後まで言葉を発する事は無かった。
ガスっ!!!
という、鈍い音が響いたのだ。何が起きたのかは想像にお任せしよう。




