10-1-8.後期授業
所変わり魔法街北区。
特殊な属性を持つ限られた者のみが入学を許されるダーク魔法学院でも、魔法学院1年生対抗試合についての説明がされていた。
「という訳ですので、ダーク魔法学院の栄誉の為にも皆さん万全の準備をお願いします。…分かったか?」
学院生達からは元気な返事が返ってくる。その中の1人、森博樹は中央区で会った街立魔法学院の生徒を思い出していた。
謎の黒い人物と戦っている所を助けた青年は今は何をしているのか。
(確か…高嶺龍人君だっけ?遠目からしか見てないけど、魔法陣の使い方が特殊だった気がするなー。)
漠然と思い出しながら授業内容に耳を傾ける。
中分けが特徴的な教師クラック=トンパは淡々と授業をこなしている。普段は普通の教師だが、珠に覗かせるヤンキーの雰囲気は怖い男でもある。
チラッと浅野の様子を見てみると完全に爆睡している。
(また浅野にノート見せてっていわれそうだね。ちゃんと授業受けるかな。)
森は黙々とノートを取り始めた。
昼休み。
森と浅野は食堂でラーメンを食べている。豚骨魚介系スープが特徴の絶品ラーメンだ。
「浅野さ、高峰君って憶えてる?」
「ん?」
浅野はズルルと麺を啜ると宙を見て記憶を辿る。
「あぁ。街立魔法学院の人?中央区で会った彼だよねぇ?」
「そうそう。今度の対抗試合に出てくるかな?」
「どうだろうねぇ。少なくとも弱い感じはしなかったから、出てきそうな気はするかなぁ。」
「そうなったら楽しみだね。」
「まぁねぇ。他学院の知り合いと戦うのは確かに楽しみだねぇ。」
浅野と森はラーメンドンブリを持ってスープを最後の一滴まで飲み干す。
「おしっ!午後の授業は全力でいこうかな!」
森が気合いを入れて立ち上がると、浅野が面倒臭そうに声を漏らす。
「うちらが全力で授業やったらやぼくないかなぁ?」
「う…それはそうだけどさっ!」
やんややんや騒ぎながら2人は午後の実践授業に参加するべく移動を開始した。
午後の実践授業は魔法学院1年生対抗試合を見据えてのチーム戦だった。
その授業内容は街立魔法学院のそれと大きく異なる。
街立魔法学院は2人チーム、3人チーム、4人チームと少しずつ人数を増やしていく手法を取ったのに対し、ダーク魔法学院が選んだ方法は4対多数という…言ってしまえば乱暴な方法だった。
授業内容は至って単純。
4人1組とその他のクラス全員での勝負だ。
如何に包囲をさせないか。
如何に敵を翻弄するか。
如何に効率良く行動するか。
それはまるで相手戦争国に少数で潜入工作を行う模擬授業の様でもある。
幾ら珍しい属性を持つダーク魔法学院1年生と言えど、この授業はかなり過酷なものだった。そして、一切の妥協を許さないクラックの指導により学院生達はボロボロになっていった。
「今日の授業本当に大変だったねぇ。あれはもはやリンチ以外の何物でもないよねぇ。」
帰宅途中にいつもの喫茶店に立ち寄った浅野と森。呟いたのはボサボサになった髪を手直ししている浅野だ。
「ホントだよね。でも、あれで少数側で勝てるようになったら僕達相当強くなった事になるよね。」
「それは間違いないんだけど、おれは出来る気がしないねぇ。」
森は腕を組んで少し考え込む。少し厚めの下唇が強調され、ゴリラ?と言わんばかりの風貌になる。
(いつ見てもゴリラだよねぇ。)
浅野がそんな下らない感想を抱きながら森の顔を眺めていると、森が真剣な表情で問いかけてくる。
「もしさ、僕達が本気でやったら勝てるかな?」
浅野は頭の中でシミュレーションをしながらコーヒーを啜る。
たっぷり5分は沈黙を保った後に浅野は突然脱力した。
「駄目だぁ。全然勝てるビジョンが見えないねぇ。強力な魔法ばっか使ってると、倒し切る前に魔力が切れるでしょ。かといってチマチマ戦ってたら包囲されるしねぇ。人数の差を埋める何かがない限り勝てる気がしないしないかなぁ。」
「つまり…それを見つけろって事だよねっ。」
森はまた深く考え込む。浅野はこういう所が真面目だよなと思いながらコーヒーを啜る。2人の雰囲気は学生というよりも、疲れたサラリーマンの様なそれになっていた。




