10-1-7.後期授業
魔法街東区。ここに在するシャイン魔法学院の1年生クラスでは、教師による魔法学院1年生対抗試合についての説明がされていた。
その説明をダルそうに聞く1人の女性。
(全く面倒くさいことこの上ないですわ。なんで私が他学院の1年生なんかと戦わなきゃいけないのかしら。そもそも、この低レベルなクラスの連中とチームを組むってだけで嫌気がさしますですわ!)
段々と怒りの感情が湧いてきた女性は鼻を鳴らすと窓の外へと視線を送る。
(あら?)
窓に映る教室内の様子。そこに、自分を見る顔を見つけた女性は首をグルンと回すと睨みつける。
「なんですの?」
「あ、いえ。随分と不機嫌そうだなって思って。そんなマーガレットをついつい見ちゃう私。っていうね。」
「マリア…。貴女って人には厳しい癖に自分には甘いわよね。普段だったらちゃんと授業を聞きなって煩い割に、今は堂々と聞いてないですわ。」
マリアと呼ばれた女性は眉を顰める。その仕草が何故か可愛子ぶっている様に見えるマーガレットは小さくため息をつく。
「それはマーガレットが話聞いてないからじゃない。そうじゃなければ私もちゃんと話聞いてるよ?」
マーガレットは大袈裟に頭を振る。合わせるようにサラサラの金髪ヘアーが揺れる。
「貴女って…本当に残念ですわ。」
「…どういう事?」
マリアの目がギラリと光る。瞳の奥に浮かぶのはメラメラと燃える怒りの感情だ。
(あら。いよいよ本領発揮しそうかしら?)
マリアが怒ると面倒臭くなるのは知っているが、ドSのマーガレットは少し楽しくなってくる。
追い打ちをかけるべく口を開こうとすると、2人の周りにキラキラしたものが浮かび始めた。
「さて、マーガレットとマリア。そろそろ人の話をちゃんと聞いたらどうだ?」
声の主はホーリー=ラブラドル。シャイン魔法学院の1年生クラスを担当する教師だ。
顔はニコニコ笑っているのだが、怒りマークも同時に出せるのが特技?な女性である。彼女が怒った時の怖さは恐らくシャイン魔法学院で1番と噂される程であるが故に…マーガレットとマリアは口を閉じる。
「ははん。何も言わないか。それでいーぞ。次、一言でも発したらボッコボコだかんな。張り付けてバッチバチにしてやっから。」
マーガレットの背中を冷や汗が伝う。ホーリーの怖い所は、口だけでないという所だ。言ったからにはやる。しかも全力で。入学してからの5ヶ月間で嫌という程経験した学院生達は決して逆らわない。
クラス中がシンと静まり返ったのを満足そうに確認すると、ホーリーは説明を再開する。
「ってなワケでだ、お前ら他の学院に負けんなよ?こればっかりは各学院の維持だからな。他の学院もトップクラスの学院生をチームとしてぶつけてくる筈だ。油断は出来ないかんな。」
(他の学院ねぇ。私より強い人って居るのかしら?全然負ける気がしなくってわよ。)
面倒くさい感情しか湧いてこない。マーガレットは窓の外を眺めて小さく息を吐いた。
ホーリーはそんな些細な事も見逃さない。
「おーいマーガレット?やる気が無いんならトップチームから外すぞ?そうしたら他の学院生からは大した事ない奴って思われんぞー?それでもいいんかね?」
「ちょっ!そんなの私が許すはずがありませんわ!」
あちゃー。といったリアクションをクラスの生徒達が取っている。そして、その理由をマーガレットはすぐに察知した。
「待って下さいなのですわ。…これは誘導です!」
「女に二言はねぇ。」
楽しそうな黒い笑みを浮かべたホーリーがマーガレットに近寄って行く。
シャイン魔法学院に本日1度目のお仕置きタイムが訪れたのだった。




