10-1-6.後期授業
その日の2対2チーム戦は散々な結果だった。
最初の試合。
突進するクラウンが袋叩きにされ、1人残された龍人がボコボコにされる。
次の試合。
突進するクラウンに着いて行くも、結局クラウンが撃破されて同じ道を辿る。
その次の試合。
クラウンのフォローに回りまくるが、そちらに気を取られすぎて龍人が倒される。
その次の試合。
試合開始直前に連携を取る話をするが、クラウンが「なんで俺様がお前のペースに合わせるのだ!このたわけがぁ!」とキレられる。
そのまま試合開始となるが…当然のごとく連携を取れるはずもない。
龍人も連携を取る気が失せてしまい、クラウンがボコボコにされるのを遠くで眺めるに終わる。
その次の試合。
クラウンを置いて龍人が突進。相手をイイ所まで追い詰めるが、最後の最後でクラウンが手柄を横取りしようと龍人も一緒に爆発させる。結果、大勢が崩れた龍人がフルボッコ。
以下省略。
授業終了後。
グラウンドに大の字で寝そべりながら空を見上げていた龍人は…チーム戦で負け続けたせいで開き直りの境地に達していた。
(いやぁ、太陽が眩しいね。)
なんて清々しい気持ちで日光浴をしていると、誰かが光を遮った。
「龍人君…大丈夫?」
「ん?レイラか。大丈夫だよー。ただ、俺はもう絶対にクラウンとチームは組みたくないけどね。」
「あれ…?」
レイラは視線を泳がせると、何故か気まずそうな態度を取り始めた。
「ん?どしたの?」
龍人の疑問に答えたのは別の声だった。
「龍人…ラルフの話聞いて無かったでしょ?」
「え?なんか言ってたっけ?」
体を起こすと、遼が「あーあ。」といった苦笑いを浮かべていた。
「今日組んだ人と2週間ずっと同じペアで実戦授業するらしいよ。」
「…へ?」
龍人の思考が止まる。そして、ゆっくりと回転し始め…状況を呑み込むと絶叫した。
「絶対に……いやだぁ!!!」
虚しく響く叫び声は青空に吸い込まれていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
校長室。
ラルフとヘヴィーはいつも通りソファーに座っていた。ヘヴィーが真剣な表情で口を開く。
「ラルフよ。1つ相談があるんじゃが…。」
「校長が相談って珍しいですね。なんですか?」
「それじゃ!私は街立魔法学院のトップじゃ!学院なのに校長っておかしくないかの?ってな訳で、今から学院長に変えようと思うんじゃ!」
流石のラルフも少しの沈黙。
「なるほど…。じゃあそうしましょう。」
ラルフは特に話を展開もさせずに受け入れる事を選択した。
そもそも、校長室…改め学院長室に来たのは別の目的があったからである。
「で、本題に入りますが…。」
「ちぇっ。私の話はほとんどするーじゃないかい。」
「まずですね、こう…学院長は12月迄に間に合うと思いますか?各学院とも魔導師団が1つ欠けている状況なので、今度の魔法学院1年生対抗試合に全力で向かって来るはずです。そして、それが分かっている行政区の奴らも其れ相応のフィルターが掛かった目で見る筈です。」
「ふむ…。それは確かにそうじゃが、私に聞くまでも無いんじゃないかの?もう既にそこまで見据えた授業をしているじゃろ?」
「…まぁそうなんですけどねぇ。まだ誰を主力として送り出すか悩んでるんですよ。確かに今年の1年生上位クラスの面々は優秀です。但し、優秀であるが故に欠点も大きいんですね。その欠点を補う…それか補い合い判断力と実力がつかない限り、他学院の奴らには勝てないでしょうね。」
ラルフは考える事が一杯とばかりに髪を掻き上げる。
「ふむ。じゃが、焦ってもしょうがないのは事実じゃ。夏までに出来る限りの事はしたじゃろ?普通よりもかなり過酷な内容にしたはずじゃ。後は、生徒達を信じるしかないでの。」
「結局そこに落ち着きますよね。あ、1つだけ考えがあるんですけど…。」
……………
「ふむ。それは…危険すぎないかの?」
「だけど、経験としては抜群ですよ?」
ラルフの目は楽しいことを見つけた子供のように輝いている。
ヘヴィーはラルフの目を見ながら沈黙を保ち、少しすると首を縦に振った。
「まぁ良いじゃろ。但し、必ず監視の目をつけておくんじゃぞ?」
「お任せください。」
ラルフはニヤリと笑うと親指を立てたのだった。




