10-1-1.後期授業
「龍人君おはよー!」
9月になり後期授業が始まる。久々に制服を着て街魔通りを歩いていると、後ろから声をかけられた。そこに居たのはレイラ=クリストファーだ。相変わらず小ちゃくトトトトッと走ってくる。
高嶺龍人も片手を上げる。
「おはよー。体調は大丈夫か?」
魔法協会の地下に監禁されていたレイラは限界ギリギリの所まで魔力を抜かれていた。助けた時はクリスタルで回復し、その後も何日か日は空いているが…それでも心配だった。
「うん、大丈夫だよ。魔力も回復したしね。龍人君こそ大丈夫?あれの影響とか残ってないの?」
「あぁ。なんとかってトコかな。体の痛みは取れたから、後は魔力が回復すればだね。」
龍人はレイラを心配させてはいけないと大袈裟に腕を回して見せる。
「そっかぁ。良かった。あの時の龍人君の苦しみ方が凄かったから、ずっと心配だったんだ。」
嬉しそうにニッコリと微笑むレイラの笑顔に龍人は釘付けになってしまう。
(やべぇ。めっちゃ可愛い。)
いつも見ていた筈の笑顔だが、過酷な状況を共に乗り越えたのが原因か、今までの倍くらい可愛く見えてしまった。
「ん?顔に何かついてる?」
龍人が顔を見つめているので、レイラは勘違いしたようだ。ペタペタと自分の顔を触りだす。
「ぷっ。はははっ。何でもないよ。」
龍人は笑いながら歩く速度を早める。
「えー!?気になるじゃん!」
レイラはぷーっと頬っぺたを膨らませながら龍人に置いていかれないように小走りを始めた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
龍人とレイラは教室の前まで到着しドアを開ける。すると、ドアの向こう側から現れたのは2丁の拳銃だった。
「へっ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう龍人に向けて、容赦無く銃弾が発射される。
(このまま避けたらレイラに当たる…!)
龍人は体のすぐ前面に魔法壁を展開して銃弾を防ぎ、右手に展開した魔法陣から夢幻を取り出すと相手の銃目掛けて斬り上げる。
(後ろもか?)
夢幻の斬撃を銃が避けた所で、龍人の後方…レイラのすぐ後ろに別人物の気配を感じる。
(前後…。それなら!)
龍人は左手に魔法陣を展開し、レイラを迂回する形で爆風を送り込む。それに併せて右手の夢幻を突き出した。手応えは共に無し。
龍人はすかさず転移魔法を発動。レイラと共に教室内の奥へと移動した。
「おい!新学期早々に激し過ぎんだろ!」
龍人が声を掛けたのは藤崎遼とバルク=フィレイア。入学早々に見たような光景を演出したのは、またもや同じ人物達だった。今回はバルクも参戦していたのが違う点ではあるが。
「いやー、2人での挟み撃ちだったらいけるかなって思ったんだけど、ダメだったね。」
遼は満足した感じでうんうんと頷く。一方バルクは、拳をプルプルと震わせていた。
「おい龍人。」
やや低めの声。
「ん?なんだバルク?」
バルクは伏せていた目をカッと開いた。
「お前はいつまで手を繋いでんだぁ!」
沈黙。
「えっと、バルクってレイラの事好きなんか?」
龍人は取り敢えず質問。
「ちっがーう!何でお前がイチャイチャしてて俺がイチャイチャ出来ないんだ!」
再びの沈黙。
「えっと、つまり…バルクも誰かとイチャイチャしたいと?」
「おう!」
バルクは自信満々に言いきった。そのバルクの後頭部に拳骨が直撃した。
「ぐはっ。」
「あんたねぇ、下らない事で騒いでんじゃないわよ。迷惑だわ。」
拳骨の主は霧崎火乃花だ。倒れたバルクの脇を歩いて自分の机へと進む。
「だから!俺にもイチャイチャさせろー!」
バルク再び叫ぶ。
そのバルクに光の塊が直撃した。
「ぐああぁ!」
ドンカラカッシャーン!
「バルクくん。クラスの雰囲気を乱すのは止めるのですわ。学級委員の私が許しませんの。」
ルーチェ=ブラウニーが少しプンプンしながらバルクの横を通り過ぎ、自分の席についた。
「お前ら…俺の事馬鹿に…」
「お前は馬鹿だろうが。馬鹿なこと言ってないで座れ座れ。」
起き上がろうとしたバルクは転移させられ、自分の席にポンっと現れる。
「よし、じゃあ後期の授業について説明すっから全員座れー。」
バルクを転移させて全員に声を掛けたのは、もちろん我らがエロ教師のラルフ=ローゼスだ。




