9-3-131.闇と実験
ルフトの波動【空気】と、龍人の波動【龍】が直進する。2つの波動はロジェスを挟むようにしてぶつかる。普通であればここで波動同士の相殺が始まるのだが…龍人はルフトの言葉通りに波動を時計回りに回そうと力を込めた。
波動は無属性衝撃波と属性衝撃波の2つの効果を与える魔法。無属性衝撃波は己の魔力を衝撃波として放ち、純粋にダメージを与える事だけに特化する。そして属性衝撃波はその属性に関連する効果を与えるものだ。ここで注意しておきたいのは、属性衝撃波事態には衝撃波としてのダメージはないということ。衝撃波として放たれた属性魔法によるダメージのみが存在するのだ。つまり、火属性衝撃波なら発火。重力属性衝撃波なら重力の付与。といった具合だ。
衝撃波の純粋な攻撃力と、属性衝撃波の属性ダメージを同時に与える波動は魔力の消費がかなり激しい。
通常の属性魔法は媒体に魔力を注ぐことで媒体が活性化、属性魔法の発動となる。波動の属性は無属性に分類される。無属性魔法の媒体は己の魔力のみだ。つまり、己の魔力を媒体として活性化させて自身の魔力によって属性魔法として発動をする必要があるのだ。これらの困難な条件によって波動を使える魔法使いは多くはない。そして、大量の魔力の塊である波動を操るなど、一般的な魔法使いにはとても出来る芸当では無かった。
龍人は全力で波動を操ろうとするが、衝撃波は全くいう事を聞く気配が無い。
(くっ…!このままだと、俺の魔力が尽きちまう。)
反対側に立つルフトは2つの波動の均衡を保ちながら、龍人の波動が回り始めるのを待っている。
(俺次第ってか?…おい、おい!この黒い靄ってもう少し力出ないのか?)
しかし、龍人の心の声に答えは返って来ない。
《…………》
(くそっダメか…。こうなったら、残りの魔力を一気に放出して向きを変えるしかねぇかな。)
《…主は人の為に身を滅ぼすつもりか?》
(お、聞こえてたんじゃん。もう少し力を貸してくれ。)
《今の段階で主の力量から考えて限界だ。これ以上は力に呑まれてしまうだろう。》
(それでもだ。ここでやられる訳にはいかない。)
《…いくら我らが主だとしても、身を滅ぼす事を前提で力を貸すなど出来ん。》
(…なら、今出来る全力でぶつかるだけだ。)
龍人の意思は固い。ここで負ければ火乃花やルーチェ、バルクが命を落とす可能性がある。そんな状況で、自分の保身の為に手を抜く事が出来るはずもなかった。
《…しょうがない。但し、主の力を超えた力に身体が壊されるのは覚悟をするのだ。》
(あぁ…。)
龍人の周りに漂う黒い霧の濃度が濃くなる。それに併せるように意識を蝕む力も強くなった。
(だけど…この魔力なら!)
波動を操る両手に魔力が集中する。一直線に進んでいた衝撃波がゆっくりと回転を始めた。
(…お、龍人…やっと来たか!よし、これで俺が回転に同調して導くように速度を上げていけば…!)
ルフトの巧みな操作により、2つの波動が同調し、回転の速度を上げる。その中心に囚われるロジェスは身動きを取ることが出来ない。
波動【空気】【龍】の属性効果が混じり合い、黒い風刃となってロジェスを切り刻む。
「ぐるぁぉぁあ!」
ロジェスは魔力を周りに放出するが、波動による囲い込みを壊すことは出来なかった。
波動は竜巻の様にロジェスを中心に回り、次第にその幅を狭めて行く。そして、全ての衝撃波が回り、球体のようにロジェスを覆い、内側へ収縮した。
ドオオォォォン!
轟音がその場にいる者達の鼓膜を打つ。続けて爆風が襲い掛かり、視界が一気に砂埃に包まれた。




