9-3-128.闇と実験
無属性衝撃波と空気属性衝撃波がロジェスの体内を揺さぶる。
波動【空気】はルフトの手を中心に全方位に放たれた為、その余波が火乃花達を襲う。その強力な力に誰も近づくことが出来ない。
「ぐあぉぉうあ!」
ロジェスは体を震わせると、ゆっくり後方に倒れて行った。
火乃花の隣に着地したルフトは肩をポンポンと叩く。
「ナイスフォローだぜ!」
二カッと笑い親指を突き出す。
「あ、どうも。」
引き攣った笑顔を返す火乃花はルフトのテンションについていけない様だ。
「お2人共まだ油断出来ませんわよ。」
ルーチェの緊迫した様子に火乃花とルフトはロジェスを見る。
ピク。ピク。ビクン!
ロジェスは大きく体をうねらせると再び起き上がり始めた。
「げっ。まじかよ。波動【空気】って相当な威力なんだけど。」
シュン
ロジェスの姿が消える。
「ぐふっ…!」
くぐもった声が聞こえた。そちらを見ると、ロジェスのつま先がバルクの腹にめり込んでいた。最後の一押しで脚が振り切られるとバルクは吹っ飛んで壁に激突する。
「バルク!」
追撃に走るロジェスを止めるべく火乃花が魔法を発動した。プロメテウスが姿を弓矢に変え、火乃花は構え、弓を絞り、矢を放った。真極属性【焔】に昇華した焔矢がロジェスに直撃する。そこから生じる圧倒的な熱量の爆発。
「まだまだですわ!」
ルーチェがロジェスの頭上に現れる。その周りには多数の光剣が浮かんでいた。それらは爆発に飲まれて歩を緩めたロジェスに向かって降り注いだ。光剣は貫くまでには至らないが、連続する上からの衝撃にロジェスは態勢を崩す。
「トドメは俺がいくぜ!」
光剣の雨の中に飛び込むのはルフト。至近距離で両手をロジェスに翳す。ルフトの全身が輝き凄まじい風圧が周囲に放たれる。魔力が掌に集中し、再び波動【空気】が放たれた。しかし、今回は先程の波動とは違う点がある。それは波動の衝撃波に指向性を与えているという事。通常、波動はそれ自体に多大な魔力を使用するために制御が難しい。その為、発動者の周囲360度全方位に向かって放つのが波動の初級と言える。だが、一定以上の力を持った魔法使いは波動に指向性を与える事が出来るのだ。全方位に放たれていた衝撃波が一定方向に放たれると考えるならば…それだけで威力が絶大なのは言わずもがなである。
ルフトの前方に放たれた波動【空気】はロジェスの全身を打ち、吹き飛ばした。ロジェスは錐揉み回転しながら部屋の隅に激突する。
ルフトは肩で息をしながら周りを見渡した。バルクは床に倒れ、近くに立つ火乃花とルーチェは表情に疲れが見て取れる。
(ちっと…これでも起き上がってきたらやばいもんね。)
ルフトは懐に手を入れるが、いつも持っているクリスタルはバルクに渡してしまっていた事を思い出す。
(もっと準備を整えてから来るべきだったかな?このまま終わってくれればベストなんだけど…。)
しかし、現実は望む通りに行く程甘くはない。
倒れていたロジェスはビクンと体を震わせると、再び起き上がった。
シュン
姿が消える。
次に姿が見えた時、ロジェスは火乃花の真後ろに立っていた。
ルフトは叫び、魔法を放つ。
「火乃花!後ろだ!」
吹き飛ばす事を目的とした風圧弾を連射する。しかし、間に合わない。
振り向きざまに焔を撃ち出そうとした火乃花を高圧電流が貫いた。




