9-3-126.闇と実験
「…って訳なのよ。そのクリスタルが胸に融合したところで巨大化して、その後の攻撃で床が落ちてこの部屋に来たの。そこからは全然歯が立たなくて一方的にやられたわ。」
ルフトは顎に手を当てながら、動かないロジェスを眺める。
「なるほどね。クリスタルとの融合か…気になるね。それに魔商庁長官が魔獣事件に関わってたなんて大事件じゃんね。まだまだ裏がありそーだぜ。」
「そうなのですわ。そもそもに於いて、何で魔獣を生み出す実験をしていたのかも分からないのです。もっと大きな流れがあって、その中の1つに過ぎない気がするのですわ。」
「なーなぁー。そんな事よりこれこらどうすんだよ?あのロジェスって奴は動かないし、さっさとこっからでねぇ?」
バルクはいまいち事の重大さを理解していないのか、頭の後ろで手を組みながらブラブラとしていたが、それも限界に達したようだ。
ルーチェが珍しく溜息をつく。
「はぁ。バルクくんのお馬鹿さ加減は直ってないんですわね。」
「お、また馬鹿って言ったな!?」
ルーチェとバルクの間にピリピリとした空気が流れる。案外この2人は仲が良いのか?なんて考えていたルフトは、視界の隅に異変を感じる。
「おい、あれ…。」
やや張り詰めた声を出すルフト視線の先には、ビクンビクンと体を痙攣させるロジェスの姿があった。
「皆気をつけて…!」
火乃花の警告で全員が身構える。
ロジェスの体の痙攣は次第に大きくなっていく。
「ぐあぁあぁ…ううううううぅぅぅううぅああぁぁあああ!」
悲痛な叫び声が部屋中に響き渡る。ロジェスは床の上をたうちまわり、体から黒い霧状のものを放出し始める。
「ぐぞぉ!あああぁぁああ!ごんなどごろで…こんナ所で俺はまげるわげにはイガナイん…!」
ロジェスの巨大化した体が徐々に萎み始める。
そして、元の大きさに戻ってしまった。
「あららら~。ちっちゃくなっちゃったじゃん。魔力も大分落ちたみたいだし…これじゃ俺の出る幕はないかな。」
ロジェスはやれやれと言わんばかりに首を振る。
「てめぇら…許さねぇ。俺はこんな所で倒れるはずじゃなかったんだ。俺には俺の成し遂げるべきことが…!」
「ふむ。確かにそうだな。それならロジェス、お前には今ここで特別な実験をしてあげよう。」
気づくとロジェスの隣にサタナスが立っていた。その右手には人間の拳ほどもあるクリスタルが握られている。
「サタナス…てめぇ俺に何をするつもりだ!」
「そんなにいきり立つな。おれは君を救ってやるんだ。むしろ感謝して欲しい位だね。では、実験といこうか。…あぁそうだ、君達には実験の様子を見せるわけにはいかないな。」
サタナスの左手が光り大量の煙が噴出された。一気に埋め尽くされる視界。そして、続く叫び声。
「おい!やめろ!やめろやめろやめろぉ!ぐあぁぁあぁあ!」
ルフトはすぐに空気を操る。
「いいか!俺がこの煙を1箇所に集める。視界が晴れたら直ぐに動くぞ!」
「わかったわ。」
「はいですの。」
「おうよ!」
(頼もしいもんだね!)
ルフトは笑うと煙を一気に上空へ集めて凝縮…視界が晴れる。
「行くぞ!……?」
ロジェスとサタナスを倒すべく、全員が動こうとしていたのだが…。視界に飛び込んできた光景に全員動きを止めてしまった。




