9-3-124.闇と実験
瓦礫が床に当たって激しい音を立てる。その中を余裕綽々な表情でバルクとルフトが着地した。
2人が降り立ったのは、かなり広めの部屋だった。
「ルフト、こりゃあ誰かが戦ったっぽくねぇか?」
「んー、そうだろうね。相当強力な魔法が使われたと思うよ。」
部屋の中は異臭…焦げた匂いが充満していた。元々白だったと思われる部屋は焦げによる黒が侵食し煤けた印象を与えている。
「それにしても不思議だね。これだけ焦げてるのに真ん中にある木だけは燃えずに残ってるよ。攻撃されて守ったのか、攻撃しながら護ったのかは分からないけど…後者だったらめっちゃすげぇ!ワクワクしてきたよ!」
普通だったら警戒しそうなものだが、ルフトは周りに音符が見えるのではないかという位にルンルンしながら部屋の中を歩き始めた。
バルクも部屋の中を歩いてみるが、特にこれと言ったものは見つからない。
「おーい!バルクー!こっちこっち!」
声のする方を見るとルフトが手をブンブン振っていた。何かあったのかと近付くと、ルフトは先程よりもウキウキ感を出しながらドアを指差す。
「俺の勘なんだけどさ、この先になにかあるってか居るってか、そんな気がすんだよねっ。行くよ?」
「お、おう!」
一層テンションが上がってきたルフトにやや気押されながらも、バルクはそれでもついて行く。
「えいや!」
少年漫画みたいな掛け声でルフトはドアを蹴っ飛ばした。
バコーン!
ドアは綺麗に吹っ飛ぶ。
ルフトはすぐにドアのあった場所を通り抜けて先に進んで行った。
(なんか、ルフトって思ってたよりも破天荒な気がすんな…。)
一緒に来たことをほんの少しだけ後悔しながら、バルクも後に続く。
その後、幾つかのドアをぶっ壊しながら進むルフトとバルク。10個目位のドア吹っ飛ばすと、それまでとは違う光景が広がっていた。
「うわっ。めっちゃケムケムじゃんか!」
「こほっ。これはすげっすね。」
ケムケム…。煙が立ち込めていたのだ。常に立ち込めている煙というよりも、今さっき大きな魔法を使ったことによって砂埃が立ち込めている。と、表現する方が妥当か。
煙の向こうを凝視するが、特に動くものは見当たらない。
煙の中で何かがキラリと光る。
ルフトの背中がゾクっと粟立つ。今までに何度も感じた感覚。強敵を前にした時にルフトが必ず感じるものだった。ワクワクする瞬間。しかし、それは同時に危険への警鐘でもある。一筋縄ではいかない敵との遭遇を意味するのだから。そして、その通りにルフトは即座に行動を開始する。
前面に魔法壁を高速展開。バルクも守れるように通常よりも大きいサイズで展開した。そして、それが功を奏する。
物凄い威力と範囲の雷撃が魔法壁を襲ったのだ。
「ぐっ…!」
それは…雷撃の威力の高さにルフトの喉から思わず声が漏れてしまう程。バルクとの特訓では1度も聞くことの無かった声だ。
…雷撃が収まる。
「ははっ!ヤバイね…!こんな初級魔法でこの威力だなんて…俺、ワクワクしてきたぜ!」
ルフトの額に一筋の汗が伝う。しかし、彼の表情は嬉々としたものだった。強者との遭遇。それがルフトが求めるもの。己の限界に挑戦し、更に高みへと駆け上がるために必要としていたものだった。
バルクはそんなルフトの様子に、ただひたすらに感心していた。
(これが、これが強い奴か…!やっぱし俺とは違う。そんですげぇ!俺も…俺も負けねぇぞ!)
2人の男が戦意を高める中、部屋を覆っていた砂埃が少しずつ晴れ始めた。




