9-3-119.闇と実験
サタナスの問いかけ。
それが何を意図するのか。そこを汲み違えて答えれば…結果は自ずと見えてしまう。しかし、この男を相手に中途半端な嘘は危険だとルーチェの直感が告げている。
火乃花は何も話すつもりがないのか動かない。
(こうなったら正直に話すのが1番ですわね。)
「私達が掴んでいるのは大した事じゃありませんわ。動物が実験によって魔獣になっている可能性があること。そして、それにラーバル長官が関与している可能性がある位ですわ。」
サタナスは顎をさする。
「そうか。ふむ。案外情報というものは漏れてしまうんだな。お嬢さんありがとう。今後は機密保護をもっと徹底させてもらうよ。」
ここでサタナスはラーバルの方を向く。
「さてラーバル。このお嬢さん達はどうする?君の不手際だよ。」
「ふん。そんなの決まってるだろう?我々の秘密を掴んだ者は死あるのみ。例えそれがどんな人物であってもな。」
「そう言うと思ったよ。それではお嬢さん達待たせたねぇ。君達が知った情報は天国まで持って行ってもらおうか。ロジェス!」
火乃花達の背後でガタン!と激しい音がする。振り向くと、ロジェスが椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がった所だった。
「やっと出番だぜぇ!おいサタナス、こいつらは殺していーんだよな?」
「あぁ。好きにいたぶりたまえ。」
ロジェスは天を仰ぐ様に全身で狂喜を表す。
「まぁまぁ、本当に変な人ですわね。」
ルーチェの感性が一般的なそれからずれているのは、もはや特筆する必要はない。
「ひゃはっ!いくぜぇ!?…ぐっ…がはっ。」
襲い掛かってくると思った瞬間にロジェスは突然苦しみだした。
腹に手を当て、自身の頭を掴むようにして地面に這いつくばった。口から垂れる涎と血走った眼が不気味さを演出している。
「う…?…サタ…なす!アレを、アレをぐれぇえ!」
まるで薬中の廃人のように苦しみ、何かを求めてサタナスへ手を伸ばす。
「ふむ。そろそろ限界かも知れないな。やはり使い過ぎによって依存の度合いが急激に増してしまったか…。」
「早く…ばやぐじろおおぉ!ぐあぁあぁあ!」
ロジェスの身体がビクンビクンと痙攣を始める。サタナスは冷酷な目でロジェスを観察し続ける。
(今の内に逃げられないかしら?)
火乃花は周りに視線を巡らせるが、サタナスはその小さな動きですら見逃さなかった。
「おっと、逃げるつもりかな?このままロジェスの暴走を見るのも一興かと思ったが…しょうがない。」
サタナスは白衣のポケットに手を突っ込むと、とある物体を取り出した。
(あれは…クリスタルですわね。何に使うのでしょう?)
ルーチェの不思議そうな顔を見たサタナスがニンマリ笑う。
「このクリスタルで何をするのか気になるかな?ふふふ。魔獣事件の答えを教えてやろうじゃないか。ロジェス!」
サタナスはクリスタルをロジェスに向かって投げる。複数のクリスタルが宙を飛んでロジェスの手元に収まった。
「ぐっ…。ひゃはっ………。」
クリスタルの1つが輝き出す。
「ヒャハハハハハハハ!きたぞ!きたきたきたきたきたきたきた!これだぁ!」
ロジェスは輝くクリスタルを前に突き出す。
「パーティーの始まりだぜぇ?」




