9-3-117.闇と実験
火乃花とルーチェが開けたドアの先には一本道の通路が伸びていた。その突き当たりにあるのはまたしても白のドア。しかし、これまでとは違う点が1つだけあった。
「中から話し声がするわね。」
ドアに耳を近づけていた火乃花が呟く。 それを聞いたルーチェも耳を近づける。
「ホントですわね。私としては乗り込んじゃいたいんですが、いかがでしょう?」
「なんでそんな危険な事をしたがるのよ。」
「もう既に危険な状況ですし、ここまで来たら当たって砕けろ位の気概が必要な気がするのですわ。」
間違った事は言っていない気もするが…どこかズレている感は否めない。
とは言え、ルーチェの魔法で火乃花たちの存在がばれている可能性は非常に高い。となると、ドアの向こうの人物達がいなくなって手掛かりが無くなるよりも、その人物達から情報を手に入れる方が効率的。と、考える事も出来る。
(幻魔法で姿を見えなくして入っても…ドアを開けたらバレわよね。)
「ルーチェ、もう少しだけ中の様子をみない?」
「んー…わかりましたわ。それでは私はここに座ってますわね。」
ルーチェは少し不満そうにしながらも、ちょこんと床に座り込んだ。
少しすると部屋の中からガチャリ、バタンという音が聞こえた。そして、それまでしていた話し声も聞こえなくなる。
「ルーチェ。中に入れるかも。」
「あら。やっとですわね。」
火乃花はゆっくりとドアノブを回すとドアを少しだけ開ける。中から物音は…しない。
ドアを開ける音がしないように慎重に開けながら中を覗く。
部屋の中は沢山の機材が並んでいた。機械に取り付けられたランプが不規則に点滅し、あたかもイルミネーションのように部屋を彩っていた。そして部屋の中央にはガラスの筒が1つ。そこから伸びる多数のコードや管が異様な雰囲気を醸し出していた。
「何なのかしら…。気味が悪いわね。」
火乃花は部屋に陳列されている機械群を眺めるが、それがどういう機械なのかすらもサッパリ分からない。
触ってみようか悩んでいると、ガラス筒に近づいていたルーチェが火乃花を呼ぶ。
「火乃花さん~この筒の中、何か入っていたみたいですわ。」
火乃花が近づいて中を見てみると、確かに何かが入っていた痕跡がある
というのも、筒の内側に水滴が沢山ついているのだ。
「おいお前ら。こんな所でなにしてんだぁ?」
急に後ろからガラの悪い声が掛けられた。慌てて振り向く火乃花とルーチェ。
そこには、いかにもヤンキーといった相貌の男が両手をズボンに突っ込んで立っていた。
緑色の短髪に引き締まった体。身長はそれ程高くはないが、それがかえってヤンキーの雰囲気を増長させているとも言える。
(あれ?この男…何処かで見たことがある気がするわね…。)
火乃花は警戒しつつも記憶を探る。
「なに黙ってんだよ?てめーらは何でここにいるんですかって言ってんだろ?答えることも出来ねぇ位に低知能のお猿さんなのか?あ!?」
目を顰め下顎を突き出すようにして威嚇する。男が一歩前に出ると、耳に付けられたピアスがキラリと光った。
「この方、怖いですわね。ガラも悪いし…私はお友達になれませんわ。」
ひそひそ声で火乃花に話すルーチェは本当に嫌そうな顔をしている。何故この状況で友達になるとかならないとかを考えるのか火乃花にはサッパリ理解が出来ない。
それよりも、火乃花には気になる事があった。
今男の耳元で光ったピアス。それが火乃花の記憶を刺激するのだ。決して遠くはない過去にそれを見ていると火乃花の記憶が言っている。
「あ…。思い出したわ。あんた魔獣事件が起きた時に街魔通りを歩いてたでしょ?」
「…あ?」
男の動きがピタリと止まる。すると、いきなり肩を震わせ始めた。
「クククク。ヒヒ。くく。ヒャハハハ!そうか!この俺をあの状況で見て、覚えている奴が居るか!そうか!いいぞいいぞ!俺が敢えてここに留まっていた理由があったじゃないか!」
そして突然黙ったと思うと、グリンと頭を曲げるように2人の方を見て目玉をギョロリと動かした。




