9-3-116.闇と実験
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あーもう、ここは何処なのよ!」
イライラする火乃花の周りに火の粉がパチパチと舞う。
「まぁまぁ落ち着いて下さいな。」
横を歩くルーチェは相変わらずのマイペースだ。
2人が立っている場所は真っ白な廊下の十字路。それぞれの突き当たりにはドアがあり、通路の横には1~2つのドアが設置されている。
全部片っ端から中を見ていけばいいとは思うのだが…。
「落ち着くも何もこの光景…もう10回は確実に見てるわよ?」
そう。開ける部屋は全て真っ白で何も置いていない。そして、通路の突き当たりにあるドアを開けて先に進んでも…毎回同じ光景が出迎えるのだ。このまま同じ光景が続いて行けば、気が狂うと思ってしまう火乃花であった。
一方、ルーチェに堪えた様子は全く無い。
「そうですわね。巨大な迷路みたいになっているのか、魔法で同じ所をループさせられているか。ですわね。」
冷静に分析をしてはいるが、解決策を見つけた訳ではない。のんびりとドアを開けて中を除き続けているのみで、事態は一向に進展していかない。
ラーバルの姿はこの十字路に迷い込んだ時に見失っている。
(周りの壁を一気に壊しちゃいたいわ。)
火乃花は最後のドアを覗いたルーチェに近寄って行く。
「ねぇルーチェ…」
「火乃花さん閃きましたわ!」
「え…なによ?」
ルーチェは人差し指を顔の横に持ってくる。あえて効果音をつけるならば「ピコンッ」だろうか。
「一気にぶち壊しちゃいましょう!」
火乃花は思わずズッコケそうになる。同じ事を考えていたのかという思いと、今気づいたのかという思い、そしてそんなに楽しそうに言うか?という思いが入り乱れてのズッコケだ。まぁ、ズッコケてはいないのだが。
「あんたねぇ。それだとラーバルに追跡してるのバレるわよ?」
「その時は火乃花さんにお任せしますわね。」
「え?」
「いきますわよ。」
ルーチェは光球を十字路の真ん中に出現させる。
「火乃花さん。通路の端っこに行って2人で魔法障壁を張りますわ。」
その間に光球は密度を増していく。バチバチし始めたと思うと一気に収束。次の瞬間、視界全てを光が覆い尽くした。強烈な衝撃が襲い掛かり魔法障壁がミシミシと音を立てる。
「ちょっと何よこれ!?」
「なんですか!?聞こえませんわ!」
「だから!何なのよこの魔法!」
「え!?なんですの!?」
以下省略。
光が収まると其処には先程と全く同じ風景が広がっていた。
「あれだけの衝撃だったのに…。何をしたのよ?」
「あ、簡単ですわ。属性【光】と【幻】を融合魔法で使ったのです。幻を創れるという事は幻を消す事も出来ますわ。その効果を強烈な光に乗せて周囲一帯に放ちましたの。多分、私達をループさせてた魔法は消えたと思いますわ。」
「融合魔法って…なんでそんな高等技術出来るのよ?」
「あら?そんなに難しく無いですわよ?街立魔法学院の2年生で教わる内容ですわ。」
「だからって…英才教育って本当に怖いわね。」
「あらあら。」
ルーチェはにっこり笑うと通路を歩き、ドアを開けて向こうを覗く。
そして、満面の笑みで振り返った。
「別の通路になりましたわ。」
「…あんたってほんと凄いわ。」
感心するやら呆れるやらの感情が入り混じったまま火乃花もルーチェに続いて歩き出したのだった。




