9-3-114.闇と実験
影から解放されて落ちるレイラの身体を龍人が抱き抱え、地面にゆっくりと降ろした。
「レイラ…大丈夫か?」
レイラは龍人を見て弱々しくも微笑む。体育座りの様な格好で座る姿はなんとも可愛らしい。
「うん、ありがと。」
クリスタルを使って魔力を回復したはずなのだが…レイラは疲弊したままだ。
余程体力が削られていたのだろうと考えた龍人はレイラに手を差し伸べて。
レイラは龍人の手をギュッと握ると、ゆっくりと立ち上がる。
「龍人君。早くここから出よう?あの男が来たら…。」
「ん?あの男って誰だ?」
「えっとね、銀髪で長髪の男なんだけど…。」
「それは俺の事か?」
突如会話に混ざってきた声。龍人とレイラが声のした方向に顔を向けると、銀髪長髪の男が倒れたユウコの傍に立っていた。
「お前…!」
「ふん。ユウコを倒すとは中々出来る。」
口元に冷たい笑みを浮かべるスイ。
「お前とユウコが仲間だったのか。って事は…。」
龍人は森林街に起きた惨劇を思い出し、銀髪長髪の男を睨み付ける。しかし、男はその視線を物ともせずに口を開いた。
「特別に俺の名を教えてやる。俺はセフ=スロイ。」
龍人は怒りを露わにして食いかかる。
「セフ=スロイ…。それがお前の名前か。絶対に忘れねぇ。…絶対に許さないぞ。」
龍人は前方に魔法陣を展開…しようとしのだが。龍人の周りの黒い靄が急速に薄れ消えてしまう。そして、その龍人を激しい頭痛が襲った。
「?ぁ…。」
夢幻が手から零れ落ち地面に転がると、ゆっくりと黒から本来の銀色へと変色していく。足の力が抜け、龍人は地面に両手を付いて頭痛に堪える。
「龍人君?…え?」
レイラは龍人の背中に手を回し、膝をついて顔を覗く。龍人の顔には脂汗がびっしりと浮かび、顔色は蒼白だった。
「そうか。まだ力を使いこなせていないか。」
気が付くとセフが傍に立ち、2人を見下ろしていた。
「どういうこと?何があったのか知ってるなら教えて!」
レイラはセフに懇願するような視線を送るが…。
セフは無表情のままレイラの目を見る。漆黒の瞳。レイラは再びセフの瞳に呑み込まれてしまいそうな感覚に襲われる。拘束されていた時に感じたのと同じ感覚。レイラという存在が引き込まれる感覚。襲いくる恐怖。普段のレイラなら…目を背けただろう。
しかし、レイラはセフと目線を合わせ続ける。自分を助ける為に戦ってくれた龍人が傍で苦しんでいる。レイラは逃げるわけには行かなかった。状況が逃げられなくしたのではない。レイラ自身の意思が逃げない事を選択したのだ。意思を持った瞳に光が灯る。それは漆黒の瞳から発せられる恐怖に対して「逃げる」という概念を「立ち向かう」という概念に変えつつあった。
「…教えて。」
再びレイラが言葉を紡ぐ。
すると、レイラの瞳に宿った意思を感じたのかセフが口を開いた。




