9-3-113.闇と実験
鍔迫り合いをしながら龍人はユウコの出方を伺う。
影を作るものがない現状で、相手の使える魔法は鉄を操る魔法に「ほぼ」限られる。ユウコ自身の影を使ってくる事も推測されるが、それでも周りに影だらけで姿を眩まされる可能性はほぼ無いと言える。
(…どう出る?影を作ってくるか?)
ユウコは剣をグンっと押し込み、龍人と距離を取った。この行動で次の攻撃を予想した龍人は前面に魔法陣を展開。その龍人を目掛けてユウコが鉄杭を打ち出した。しかし、鉄杭は魔法陣に触れると吸い込まれるように消えてしまった。
「な…!」
「甘い!影を作るつもりだろうけど、鉄杭自体を別次元に送っちまえばイイだけだ!」
「く…ならば!」
ユウコは影を作る為に全方位へ鉄杭を打ち出す。このまま部屋の至る所に鉄杭が突き刺されば、影のジャングルの完成となるが…黒い靄を発現させている龍人の魔力はそれすらも防ぐ。
鉄杭は部屋の壁や床に突き刺さる寸前で動きを止め、龍人の真上一点に向かって方向転換をしたのだ。鉄杭は巨大な針がびっしりと生えた球体の様な形になると動きを止める。
「お前その魔法…属性【磁力】か!何故そんな属性魔法を使える!?」
いきなり怒りを露わにしたユウコに対して龍人は首を傾げる。
「なんでってもな。出来そうだなって思っただけだ。」
「…そんな事で磁力魔法を使えるだと?やはり…。」
「言っとくけど、コレでまだ終わりじゃないぞ?」
龍人は真上に集めた鉄杭を別次元に送ると、ユウコに向かって走り出した。再び鉄杭を撃ち出してくるが、最小限の動きで避け続ける。
ユウコは龍人から距離を取ろうと地を蹴った。しかし、右肩に強い衝撃を受ける。見ると魔法陣が展開されていた。
(いつの間に…!)
「じゃ、これで終わりだな。」
龍人の言葉が終わるのと同時にユウコを激しく細かい振動が襲う。
「かはっ…!」
振動は脳をも揺さぶり、ユウコは地に伏した。そして、レイラを拘束していた影もするりと解けて消え去ったのだった。




