9-3-110.闇と実験
部屋がグラグラと揺れ始める。
「何をした!?」
「ふふ…そう警戒しないで。この部屋じゃ思い切り戦うには狭いでしょ?」
先程戦った時は女っぽい話し方が偶に出ていたユウコだったが、今は女性的な話し方がスタンダードになっている。それが彼女本来の話し方なのかは分からないが…。
部屋の揺れは少しの間続くと、急に止まった。
ユウコは口元に笑みを携えながらドアを開け、手招く。
「来なさい。」
龍人とレイラは互いに目を見合わせると、ユウコの後についてドアを出る。レイラがまだ自力で立つことが出来ない為、龍人が支えながらの移動だ。レイラを支える右手の感触が柔らかくてイイ。なんて事を、龍人がこれっぽっちも思わなかったのかは想像にお任せしよう。
ともあれ、ドアを抜けるとジャングル?が広がっていた。
「なんで部屋ん中にこんな所があるんだ…?」
呆気に取られて眺める2人。
「この部屋は動物達の能力を確かめる為に作られたのよ。より自然に近い形で戦わせた方が正しいデータがとれるの。さて、あなた達はここから抜け出せるかしら?」
そう告げると、ユウコの体が木から伸びる影に同化しいく。
(またあの魔法か…。これだけ障害物が多いと何処から出てくるか全然分かんないな。)
「龍人君…。」
支えられながら立つレイラが不安そうな目で龍人を見る。
「…大丈夫だ。」
「そうかしら?」
背後からユウコの声がしたと思うと、影が伸びてレイラを絡め取ってしまう。
「きゃっ!」
「しまった…レイラ!」
影は少し離れた木のてっぺんまで移動し、そこにレイラを巻きつけた。
「さぁ高嶺龍人。この影は時間と共に締め付けていく様になっているわ。彼女の体が引き千切れるまでね。私を倒す以外に助ける方法はないわ。」
「…卑怯だぞ。人質を取るのかよ!」
「…なに生意気な事を言ってるのかしら。元々私とお前はイーブンな立場じゃないのよ。とんだ甘ちゃんじゃない。こうやって話している間にも彼女は段々苦しくなってるのを忘れない事ね。」
ギリギリと嫌な音を立てながら影がレイラを締め付ける。
「う…。龍人君、私の事は気にしないでいいから…。」
自信が辛い立場に置かれているのにも関わらず、レイラは龍人を気遣う。
「レイラ…。」
ユウコの行う卑劣な手段に龍人の怒りが爆発する。
「ユウコとか言ったな。俺はお前を許さねぇ。絶対に許さねぇ。」
怒りと共に龍人の中に激しい感情の嵐が吹き荒れる。
《また…我の力を欲するか。まぁ良い。欲するのであれば使うが良い。だが、もう1度言うぞ。力に呑まれたら主の人格は消え去ると思え。》
(あぁ。やってやるさ。力なんかに呑まれるか。俺は、俺の意思でこの力を使う。)
ゆらゆらと龍人の周りに黒い靄が顕現し始める。
それを見たユウコの顔から笑みが消えた。緊張の入り混じった表情で小さく口を動かす。
「出たか…。これがセフ様の求めるものか、私が確かめる。」
龍人とユウコのレイラを巡る戦いの火蓋が切って落とされた。




