9-3-96.闇と実験
魔法学院のすぐ近くにある自宅。そこで遼は夜ご飯で作ったスパゲッティを頬張っていた。
(さっきのネネって人から聞いた情報…。もし本当だったら…ヤバイよね。ラルフも何か心当たりがありそうだったし。)
ラルフに連れられて行った店のネネというメイドから聞いた情報。その情報が持つ深い意味までは分からないが、それ自体が本当だった場合に魔法街に混乱が生じるのではないかという推測くらいは遼にも出来た。
「さてと。また学院に行くかな。まだまだこの銃だけじゃ戦えないし。」
遼はキタルから強制的に渡された双銃を取り出す。何の変哲もない銃。その銃で属性魔法を使っている時と同じレベルで戦えるようにするというキタルの注文は、かなり過酷である。属性で変化を付けていた攻撃を銃弾の種類を変えるという方法に置き換える事で、攻撃に変化をつける必要がある。簡単な様に思えるのだが、実際にやってみるとそれが難しいのだった。頭ではイメージが出来てもそれを具現化する事の難しさが遼の前に立ちはだかっていた。
「よしっ。」
気合いを入れて立ち上がった遼。すると部屋の隅が光り、ラルフが現れた。突然すぎる登場に遼はイマイチ反応をしきれない。
「えっと…?」
「詳しい話は後だ!裏が取れた。場所も分かったぞ。多分だが、俺の予想してた通りになりそうだ。まずはそこに突っ込むぞ。」
「え。突っ込むって殴り込む的なイメージですか?」
「おう。行くぞ!」
何か雰囲気がいつもと違うラルフに腕を掴まれた遼は、強制的に転移魔法に取り込まれたのだった。
転移の光が落ち着いた所で見えたのは、魔法協会南区支部の外観だった。厳かなイメージを抱かせる協会の外観。そこにステンドグラスが街の光を反射しているのが神秘的な雰囲気を漂わせている。
「え。ここですか?流石にそれはないんじゃないですか?」
「詳しくは歩きながら話す。」
ラルフは(珍しく)真剣な顔をしたまま歩き出す。遼も慌てて後について歩き出した。魔法協会の中に入り、混雑したエリアを抜けるとラルフが口を開いた。
「いいか。まずは魔商庁のラーバル長官については、確実な証拠は見つけられなかった。ただ、魔法を使う動物…魔獣に関しては、その実験が行われているのがここの地下らしいって情報を手に入れたんだ。ネネの奴、知ってるくせに出し惜しみしてやがった。」
つまり、遼と別れた後にまた「あなたと私の萌え心」に行ったことになるが…。それが遊びなのか情報を仕入れに行ったのか、その両方なのかは分からない。しかし、珍しく真剣モードのラルフにそこの所を突っ込む事は出来なかった。




