9-3-94.闇と実験
店主に招き入れられた部屋は何の変哲もない所だった。強いて言うなら、やけに豪華なソファー、やけに豪華なテーブルが置いてある位か。しかし、お嬢様と呼ばれる環境で育ってきた火乃花とルーチェからすると、日常的に目にする家具と大差がないので…特段何の感想も抱かなかった。
促されてソファーに座った2人を見下ろす店主は、少しだけイヤらしい表情をしていた。
「さて、あの場所に案内する代わりと言ってはなんだが、お嬢さん達は何をしてくれるんだ?」
「え?何をして欲しいのですか?」
ルーチェは不思議そうな目で首を傾げる。
(これってヤバイんじゃない?)
火乃花は警戒しつつ店主の発言を待つ。店主はイヤらしい笑みを一層深めていた。
「よし、じゃあ俺のアレを…」
言葉を遮るようにして火乃花が店主へと近寄る。その目は完全に怒りに燃えているが、店主は気づいていない。
「分かったわよ。ただし、私は手加減できないからね。」
「へへっ。望むところだぜ。………へ?」
期待に満ちた店主の前に焔が現れた。火乃花の操る焔は、店主の服を燃やさない程度の熱量で身体の周りをゆっくりと這うように上がっていく。
「拘束してそこから高熱でじっくり炙ればいいかしら?さっきも言ったけど、手加減できないからね。一生残らない火傷痕と付き合って行くんでいいのよね?それで案内してくれるのよね?」
焔は少しずつ熱量を上げていく。
「ふ…ふん。小娘如きに脅されてたまるか。」
店主は額を伝う汗(暑いからではない)を拭いながらも気丈な態度を貫く。
「ふーん。小娘ねぇ。」
火乃花の目がスッと細められる。すると、身体の周りをうねっていた焔が店主の体に直に触れるように巻きついていく。
「あちっ。あちっ。ち、ちょっとまて!」
「なに?小娘如きの焔じゃ脅しにならないんでしょ?だったら余裕じゃないこの程度。」
鋭い目で挑発するように話していると、ポンポンと肩を叩かれる。
「火乃花さん。こんな方法はダメなのです。」
苦悶の表情を浮かべる店主が「救いの手が来た!」と、表情を輝かせる。…が、次の言葉で奈落の底に落とされたような顔になる。
「私が以前習った拷問方法にこんなのがありますわ。まず、手足の各指に光の球を付着させますの。その後、1個ずつ破裂させて行くのですわ。全ての指の爪がなくなっても耐えるようでしたら、そこに炎を付着させるのです。更に体の至る所を攻撃される幻で包み、その中に時々実際の攻撃を混ぜるのです。そうする事で体力をジワジワ奪い、常に緊張していなければならない状況下に置くことで精神を衰弱させるのですわ。あ、他にいいアイディアがあれば取り入れましょう。私達のオリジナル拷問で店主さんをボロボロにしますわよ。」
エグい言葉をツラツラと並べた後にルーチェはニッコリと微笑んだ。




