9-3-87.闇と実験
火乃花のガッカリした演技は、まるで可憐なお嬢様を思わせるものだった。警備員の男達が少しだけ下心を覗かせてしまったのもしかたがないと言えよう。
「…本当は教えちゃいけないんだけど、火乃花さんには特別に…教えるよ!代わりと言ってはなんだけど、連絡先を教えてもらえないかな?」
「え…!?連絡先ですか?…恥ずかしいです。」
モジモジしてみる。
「大丈夫大丈夫!変なことをしたりなんてないから!よし、会議が終わったらラーバル長官は裏口から帰るはずだから、その辺りで待っていれば会えるはずだよ。会議場の出口は何個かあるし、その後にすぐ帰るかも分からないから、裏口で待ってるのがかくじつさ。」
「あら、そうなんですね!ありがとうございます。」
火乃花は警備員たちに頭を下げる。そして…悩む。
(連絡先を教えろだなんて…無理に決まってるじゃないの!何か逃げ出す方法はないかしら…。)
火乃花が視線を警備員達に戻すと、4人ともメモ帳に何かを書いている。
「はい!これが俺達の連絡先だ。何かあったらすぐに助けに行くからね。なんたって警備会社でこれでもかって位に訓練を積んでるからね。」
半ば無理やり渡されたメモ。そこには4人の連絡先が書いてあった。慌てていたのだろうか、誰も名前を書いていない。もしくはナンパ(ほぼ)をするのが初めてで緊張しているのかも知れない。
しかし、火乃花も名前が書いてないことをわざわざ教えるほどお人好しでもない。
「ありがとうございます。何かあったらすぐに連絡先させてもらいますね。」
再び満面の笑顔を披露する。
「おい!警備員!何をごちゃごちゃと喋っているんだ!会議室の中まで聞こえているぞ!?」
いきなりドアの内側から怒鳴り声が聞こえてくる。
慌てる警備員4人。
「やべ!見つかると減俸されちまう!火乃花ちゃん、この地図のここが裏口だからその辺りでまってるんだよ?じゃ、急いで離れて!」
「あ…えっと、ありがとうございました。」
火乃花は急いで廊下の角を曲がる。曲がる途中で警備員達をチラリと見るが、何もなかったかの様にビシッと立っていた。
本人に自覚は無いのだが、人生初の(プチ)色仕掛けを経験したのである。
(先ずは裏口とその周りがどうなってるか確認しないとね。)
火乃花は警備員に渡された地図を片手に行動を開始した。




