9-3-82.闇と実験
光の奔流が消えた後…破壊された壁の反対側に位置する壁の近くに刺さった鉄杭の影から女の姿が現れる。
「くっ…ここまでとは…。」
女は左腕を抑えながら鉄杭にもたれ掛かる。部屋の反対側では龍人が辺りを見回しているが、女の居場所までは掴めていない様だ。
女はギリギリと歯を軋ませながら龍人を睨みつける。
(ここで私が捕まるわけにはいかない。)
足元の影が伸びて女を包み込む。そのまま床に伸びる影に同化し、女は姿を消した。
壁を破壊したのと同時に黒い靄は薄れていき、消え去った。
頭に響く声。
《…我の力を使うにはまだまだ未熟か。我は主が求めれば力を貸そう。其れが我に課せられた使命。》
「使命?何のことだ?そもそも…お前は誰だ?なんで頭の中に話しかけてくるんだよ?」
龍人は辺りを見回しながら問いかける。
《…………。》
しかし、声が龍人の問いかけに答える事は無かった。
(さっきの黒い靄はなんなんだ?それにあの声…森林街で銀髪の奴と戦った時に聞いた声と多分同じだ。…ワケが分かんないな。…あ、女はどこだ?)
龍人は周囲を見回し、探知結界を部屋中に張り巡らせる。
(…?反応が無しか…。さっきの魔法で消し飛んだって事もなさそうな気がするし…。警戒しつつ先に進むかね。)
部屋の中を改めて観察する。
ドアは1つのみ。龍人がこの部屋に入ってきたドアだ。
他に進む出口といえば…
「ま、ぶち壊した壁の先かね。」
龍人は壊れた壁の先にある部屋へと歩き出す。
その姿を天井に取り付けられていた極小のカメラが追いかけていた。
カメラが映し出す映像を別室で眺めているのは、銀髪長髪の男だ。
その後ろの影が蠢くと、龍人と戦っていた女が現れた。
「セフ様…申し訳ありません。」
女は腕を抑えながら銀髪の男…セフに向かって膝をつく。
「…甘く見たな。同じ失敗はするな。」
「…はっ!」
セフはモニターに映る龍人へ視線を戻す。
「さて…と、彼はこの先あるものを見て何を思うだろうか。」
セフの口元が薄っすらと笑みを帯びる。
画面の中の龍人は、丁度壊れた壁の先にある部屋へと足を踏み入れていた。




