9-3-80.闇と実験
「ぐあぁぁあ!」
龍人の四肢を激痛が襲う。上に乗る女の表情は龍人がどれだけ苦しもうとも変わることは無い。握りしめていた夢幻が手から零れ落ち、金属音を響かせる。
絶体絶命。少しでも反抗する素振りを見せれば喉元に押し付けられているナイフが横に滑り、鮮血が大量に流れ出る事は間違いがないだろう。しかし、ここで何もしなければ…そのまま死を迎えるのもほぼ間違いがないと言える。
(くそ…どうにか…何か方法はねぇのか?)
女が低い声で告げる。
「まだ足りないか。…出てこないで死ぬのなら、それはそれだな。私はあの方の為に止まりはしない。」
女は黒い針を1本生成し龍人の腹部へ突き立てた。
「がはっ………。…!」
龍人は痛覚がもたらす衝撃に視界が揺らぎ、霞み、ボヤける。
(だ……めだ…。)
目から光が少しずつ失われていく。口の端からは血が垂れ、誰が見ても死を迎える直前だ。
《欲するか?》
突然、龍人の頭の中に声が響いた。
(この声…聞いたことが…)
《我の力を欲するか?我は主を救えるぞ?但し…我を御することが出来なければ、破壊が辺りを埋め尽くすぞ。》
(破壊…?……だけど……俺はまだ死にたくない…!)
《…我の力を貸し与えよう。我の力に負けるなよ青年。》
体の中心から力が湧き上がり、一気に黒い靄が噴き出す。
「なんだ…!」
女は小さく叫ぶと両腕で黒い霧の直撃を防ぐが、勢いに押されて吹き飛んでしまう。
着地した女は口元に笑みを浮かべた。
「そうか…これがあの力か。これが私達のものになったら凄いわ。」
黒い霧の噴出とともに龍人の四肢に刺さっていた影針は霧散。一瞬、黒い霧の中に白い霧が混じるが、すぐに黒一色に戻る。
「動けない今が拘束するチャンスね。」
今まで話し方を男口調にしていた女は、龍人が発生させた黒い霧のでその事を忘れてしまったのか、本来の女性口調になっている。
女は両手に影の鞭を生成、龍人に向かって振るう。影の先がしなり、蛇のように龍人を捕獲するために伸びる。
そこで龍人がふらりと立ち上がる。
鞭の先が龍人に襲い掛かる寸前、龍人の上げた右手の先に魔法陣が展開される。
バヂィン!
激しい音を響かせて鞭が弾かれた。




