9-3-77.闇と実験
砕け散った後にまず目に飛び込んできたのは金。そして細身の女性的なシルエットだ。細身だけれども巨乳。なんて事は無く、体型に見合ったサイズと言えるだろう。
そんな邪推をしてしまう程に印象的な金髪だった。一言で言えば美人。
「…なんだその目は?」
女は龍人を睨みつける。
「いや、予想外の金髪ってか、なんてかね。」
「ふん。そんな事で気を緩めていていいのか?私をここまで追い詰めたのは褒めておこう。しかし、本番はここからだぞ。」
女が両腕を横に広げると黒い何かがユラユラと漂い始める。
龍人は警戒しながらも、先程の戦闘で感じた疑問を口にした。
「なあ、お前と俺ってどっかで会ったこと無いか?さっきの鉄針を使う魔法を見たことある気がするだけど。」
この質問。龍人はほぼ答えを予測してはいるが、敢えて曖昧な聞き方をしている。
「…。…あぁ覚えているかは知らないが、中央区で会ったな。今回は誰も助けに来ないぞ?」
話しながらも女の両腕に広がる黒い何かは、その質量を拡大し続けている。
そして、今の答えで龍人の中で確信に変わる。中央区で戦い、殺されかけた相手。それが今、目の前に立っている。龍人の中での警戒心が更に強くなっていく。
(前回は全く太刀打ち出来なかったからな。それに腕の周りのはなんだ?…闇属性か?だとしたらかなりやっかいだぞ。)
龍人は闇属性の魔法に対抗出来るように光魔法に属する魔法陣を幾つか展開。すぐに発動出来る態勢を取る。
女は広げていた腕をゆっくりと下ろした。
「さぁ行くぞ。私の本気を見れる事を光栄に思ってね。」
(ん?今女口調にならなかったか?)
余計な所に反応してしまう龍人。
女は龍人に向かって腕を突き出す。腕から迸るのは…複数の鉄柱。いや、鉄杭か。龍人を貫かんと高速で飛翔する。
(これ、防げんのかな?)
防御壁は物理に特化してはいるが、余りにも強力な攻撃に対しては砕けてしまう。そして、今回は龍人が今まで経験した事がないレベルの攻撃に属するもと予想される。
龍人の取った選択肢。まずは相手の魔法の威力を確かめる事だった。
まず、前方に防御壁を3つ多重展開、そして自身は魔法陣による転移で離れた所へ移動する。
鉄杭の1つが防御壁に激突。2つの防御壁を簡単に砕き、最後の1つに突き刺さった所で進撃を止めた。
(おいおいマジかよ。)
鉄杭が飛んで来るたびに防御壁を3つ失っていたら…龍人の魔力が尽きるのは時間の問題だ。これにより、龍人の行動が1つ限定されてしまう。
それは、鉄杭に対しては回避をするしかないという事。
更に、回避に転移魔法陣を多用することも避けなければならない。転移魔法陣自体の魔力消費量は、他の魔法陣と比べてかなり多いのだ。




