9-3-74.闇と実験
その女性は人混みをすり抜けるように歩き続ける。走っている龍人と遜色ない速度で移動を続ける為、中々追いつくことができない。
(はえぇ。…ってか、追いかけてる俺って相当首を突っ込むの好きだよな。)
追いかけながらも、現在の状況を作り出した自分自身にツッコム龍人。しかし、目の前を進む女性が男性の死(見届けていないので推測)に関わっているのは状況からして確実といえる。周囲の人々がそれに気付かなかった事が気になるが、それでも龍人は足を止めない。龍人の直感が見失ってはいけないと告げているのだ。
(あ、やべぇ。見失ったか?)
視界から女性の姿が消えてしまう。龍人は立ち止まり、注意深く辺りを見回す。
「…いた!」
建物の角を曲がる姿がチラリと目に入る。
何度か見失ってはいるがギリギリの所で見つけ、なんとか追跡を続けている。
(歩く速度が微妙に変化してる気がするけど…気のせいか?)
女はまた建物の角を曲がり、視界から外れてしまう。
(またか。やべっ。)
龍人も急いで角を曲がるが、今度は本当に姿を見失ってしまう。
「…消えた?」
曲がった先は一本道。ここから姿を消すには両サイドに立つ建物の上に移動するか、魔法での転移以外に方法はない。
(あのタイミングで曲がって、上に行ったんなら見逃すはずはないかな。となると………見つけた!)
道の途中に置いてある影に魔法陣らしき光を見つける。その場所に駆け寄ると、予想通りに魔法陣が地面に描かれていた。恐らく転送魔法陣だと推測されるが、転送先が追いかけていた相手の仲間達のど真ん中だった場合…龍人は絶体絶命となってしまう。
(どすっかな。このまま一度帰るのもな…。)
龍人が迷っていると魔法陣は少しずつ薄れ始めた。
「…っ!いーや行っちゃえ!」
【なるようになる】…なんていうやや甘い考えで、龍人は消える直前の魔法陣に飛び乗り、転移の光に包まれた。




