9-3-73.闇と実験
MagicShop男女男女を飛び出し、ドレッサーの脅威から解放された龍人は中央区の雑踏の中を歩いていた。
毎日店の場所が変わる中央区は迷うのが当たり前である。そうであるが故に、中央区は何度来ても飽きる事がないとも言える。
コーヒーでも飲んでひと休みしようと、お茶する?を探して歩き回った龍人だったが…そんな日に限って見つからないものである。
休もうと思ったが逆に疲れてしまった龍人は、さっさと南区に帰ることを決め、転送魔法陣に向けて歩く。
(お、やっと見えてきた。さっさと帰って夢幻を使ってみるかな。)
ふと、目の前を歩く女性の姿が目に飛び込んできた。
(なんだろ?なんか気になる。)
全身が黒に近い色の服で統一されている。そして、スラリとした体型。髪が夜会巻きにされているのが、細い印象を更に強めている。
しかし、これらの要素は龍人の注意を引いた小さな要素に過ぎない。何よりも気になったのが身のこなしだ。とても綺麗な歩き方をするのだ。一言で言えば、モデル。しかし、それでいて周囲の人々が振り返ったり、視線を送ることがほとんどない。
(なんで誰も気にしないんだ?)
歩く方向が同じな為、後ろ姿を眺めながら歩く。決してやましい気持ちがあって後ろを歩き続けている訳では…無いはずだ。転送魔法陣が見えてきた所で女性は立ち止まった。
よく見ると女性の正面には男が立っている。二言三言話した素振りを見せると女性は再び歩きだした。
そして、残された男の表情が龍人の視界に入る。
見開いた目、中途半端に空いた口。全てを失った人間の顔をしていた。
(…なんだ?何かおかしい。)
龍人の感じた違和感はすぐに形となって現れる。
「あ…が…ボコボコグジュボゴ…。」
その男は痙攣をすると口から赤い泡を吹き始める。
周囲にいる人々も異変に気づき、遠巻きに眺め始めている。
(なんだ?何が起きた?何がコレを引き起こした?…あの女が犯人か?)
龍人は咄嗟に視線を男の向こう側へ移す。その女性は人混みの中に姿を紛れさせようとしていた。
(男を助けるか?…いや、女を追う!)
龍人は己の直感を信じて駆け出した。




