2-7-30.授業 魔法学
完全にやる気ゼロの龍人が教卓の前に着くと、そこには金髪ショートカットの女の子が立っていた。女の子は龍人に向けて丁寧なお辞儀を披露する。
なんというか…普通の女の子というよりは、良い所育ちのお嬢様。そんなお辞儀だった。
「龍人くん、よろしくお願いしますの。ルーチェ=ブラウニーですわ。学級委員頑張りましょうね。あ、私の事はルーチェって呼んで欲しいのですわ。」
そう言うとニッコリと微笑み掛けるルーチェ。
お嬢様的な柔らかい雰囲気に普通の男なら多少なりともドキッとするはずなのだが…龍人にはそんな余裕は無かった。
ルーチェが言ったとある単語が頭の中でリフレインしているのだ。
(ちょいまて。学級委員?これは…マジか?マジで?俺が学級委員やんの?ってか学級委員って仕事何やんだ?めっちゃ面倒臭そうなんだけど。)
龍人の思考は既にプチパニック状態だ。だが、そんな醜態を晒すわけにいかない龍人はぎこちなくルーチェに微笑むと、ラルフを見る。
その視線は真剣…ガチだ。
「先生。これはドッキリではなく、マジな展開ですよね?マジすか?嘘だと嬉しいんですけど。」
ラルフが答える前に、龍人の言葉を聞いたルーチェが震える声を出す。
「龍人君、本当はやりたくなかったのですか?一緒に頑張ろうって思ってましたのに、そうなんですね…。」
嫌な予感がして隣に立つルーチェを見ると、彼女は涙目で龍人を見ていた。
ぐっと言葉が詰まる。
クラスの皆が見ている前で、女の子を泣かせているこの状況は…あまりにもよろしくない。
(駄目だ、ここで断ったら完全に俺が悪者だろ。…観念するしかないか。)
龍人達の後ろでは、他の生徒がヒソヒソとこちらの様子を伺っている…気がする。とてもじゃないが怖くて振り向く事は出来ない。
「いや、先生っていつも適当な事言うじゃない?だから、本当に自分で良いのか確認してたんよ!もーやる気満々だよ!頑張ろうぜルーチェ!」
「龍人くん…ありがとうですの!一緒に頑張りましょう!」
パァっと表情を輝かせるルーチェである。
ここまできたら(追い込まれたら)…そしてやると決めたのなら、もうカラ元気で乗り切るしかない。
それにしても、つい先程の涙はなんだったのだろうか…そう思うくらいにルーチェはニコニコと微笑んでいた。
龍人の様子を見て心情を察したのであろうラルフは、いつもの如くニヤリと笑うと2人に紙束を渡した。
「この資料を2人で読んどいてくれ。夏の合宿に関するものだ。1年の全クラス合同で行うから、そのルール作りに参加してもらう。よろしくな!じゃ、席へ戻れー!」
渡された紙束は軽く2cmはある分厚さだった。
この資料を読むだけでも面倒なのに、更にそれを読んだ上でルール作りに参加というのは非常に面倒くさい事態である。
資料を読んでいないと、ルール作りの際にそれがバレてしまうのだ。
自分が招いた事ではあるが、途轍もなく面倒くさい事になったと嘆きながら、龍人は席へと戻る。ルーチェは自分で立候補しただけあって、紙束を胸の前に抱えてやる気満々の表情をしていた。
さて、2人が席に戻った所でラルフが話し出す。
「さてと、授業をやるか。かなり濃い内容になるから、気合入れろよ!」
かくして、魔法学の授業が幕をあける。




