9-3-64.闇と実験
その後の魔商庁クルーズは圧巻の一言に尽きた。怒鳴り声が飛び交う部署。皆が無口で事務処理をひたすら続ける部署。楽しい笑い声が響く部署。階層1つを丸々使用した巨大な会議室。忙しくて帰れない社員の為の就寝室。栄養バランスを完璧に計算して作る料理を出す社員食堂。
それらをラーバルによる丁寧な説明付きで見学した火乃花とルーチェは、疲れた顔をして再びエレベーターに乗っていた。
「ここまでざっと説明してきたが、どうでしたか?」
全ての場所で楽しそうに話していたラーバルは、相変わらず上機嫌だ。
「思った以上の凄さでした。やっぱり業務内容が多岐に渡るから大変なんですね。それでもほとんど全員の顔がやる気に満ちていて素敵でした。」
「うんうん。魔商庁が無くなると各区間の流通が止まってしまうからね。それにしても、ほとんど全員と言うか。…火乃花クンはいい観察眼をもってるのかも知れないね。ルーチェクンはどうでしたか?」
「そうですわね…。これだけの巨大な規模で、業務内容も多岐に渡る機関のTOPであるラーバルさんは本当に凄いんだと思いましたわ。」
ルーチェの本音なのか分からないお世辞にラーバルは好反応を示す。
「クックック。褒めても何も出ませんよ?」
嬉しそうに話しながら前髪を掻き上げる様子は、ナルシストの雰囲気を醸し出している。
エレベーターが止まり、ドアが開く。
「さて、ここが魔商庁の最上階。長官の為だけに作られたフロアをご案内しようじゃないか。」
エレベーターを出ると、目の前にあるのはドア。ラーバルは上着の内ポケットからカードキーを取り出すと、ドアの横についている機械に通す。10秒程の認識時間を経た後にドアのロックが解除された。
「ふふふ。さ、どうぞ。」
ラーバルは2人に微笑みかけると、先に歩き出す。ラーバルに続いてドアを抜けたルーチェと火乃花は予想を裏切る光景にポカンとしてしまった。




