9-3-63.闇と実験
「ははは。君達は若いねぇ。青年君、気にしなくていいよ。私がしっかりと案内をさせてもらうから。私に対して失礼とかは考えないでくれたまえ。」
2人の仲裁に入ったのはラーバルだ。青年は安心した表情をあからさまに浮かべる。
「ありがとうございます。何かと失礼な事があるかもしれませんが、ご容赦いただければ幸いです。それでは…失礼します。」
事務局の青年はもう1度お辞儀をすると、さっと踵を返して歩き出した。魔商庁の玄関を出る間際に、腕時計に目をやったのは演技か本当か。
「執行部の事務局も忙しいからね。まぁ、そんなに彼を責めないでやってくれたまえ。では、行きましょうか。」
火乃花とレイラは顔を見合わせるとラーバルに続いてエレベーターに乗り込んだ。
ドアが閉まりエレベーターが動き出す。
魔力駆動機を原動力として動くエレベーターはとても静かで、ほぼ無音状態で上下移動を行う。
最も、この世界の…魔法街の住人達にとっては、それが普通であり常識ではあるのだが。
エレベーターが静かな為、火乃花やルーチェにとっては気まずく感じる無音の時間となる。
2人のそんな雰囲気を感じ取ったのか、ラーバルが口を開いた。
「それにしても、君達は何で魔商庁を見学したいと思ったんだい?」
「あ…はい。東西南北の区と行政区、中央区の全ての商業に関する統括機関として機能している魔商庁が、どういった仕組みで動いているのか興味があったんです。」
答えたのは火乃花だ。予想の範疇内の質問だった為、スラスラと答えることができた。
まぁ、予め答えを用意していなくても、火乃花であれば今の回答と同レベルの返しをする事はむずかしくない。
「流石は火日人さんの娘さんですね。将来を見据えていらっしゃる。お隣のルーチェクンはどうして見学しようと思ったんだい?」
「私は単純に巨大なお金の流れの管理方法に興味があったのですわ。」
「はは。直球ですね。それにお金の流れとは。流石は税務庁長官の娘さんです。」
ラーバルは楽しそうに頷く。
ここでエレベーターが止まり、ドアがスッと開いた。
「さて、まずは商品の流通を管理している部署からご案内しよう。」
微笑むラーバルの後に続き、火乃花とルーチェは歩き出した。




