9-3-61.闇と実験
魔法街行政区。この星の殆ど全ての権力が集中する場所を火乃花とルーチェは歩いていた。
ニコニコ顏のルーチェと緊張した面持ちの火乃花。2人の前を歩くのは執行部事務局の青年だ。ここに至るまでの道中、名前を聞き出そうと頑張ったのだが成果を得ることはできなかった。
頑なに拒むということは、余程変な名前なのか…執行部の守秘義務があるのか。定かではない。
ともあれ3人はとある場所に向かっている。
歩き続ける事約10分。目的地に到着した火乃花とルーチェは、やけに高く聳え立つ建物を見上げていた。
「南区と行政区って本当に田舎と都会って位に違うわよね。この建物高すぎでしょ。」
火乃花の言葉に応えるのは執行部の青年だ。
「魔商庁は魔法街全体の商業を一手に担ってますからね。それだけ沢山の部署や人員が必要なんだと思いますよ。」
「ふーん。ここのトップがどんだけ踏ん反り返ってるのか見てみたいわね。」
「ちょっ…!そういう事をこんな所で言わないでくださいよ!」
必要以上に焦る青年。無駄にあたふたしているため、それがかえって周りの注目を集めている事には気づいていないようだ。火乃花もその点について指摘をするつもりは更々なく、いつの間にかレイラが居なくなっている事に関心が移っていた。
「火乃花さーん!こっちですわよー!いきますわよー!?」
ルーチェの声のする方を見ると、魔商庁の正面玄関前で手を振りながらピョンピョン跳ねている。
(やっぱり私って周りに変なのが集まるのかしらね。)
あたふたする青年と跳びはねるルーチェ。この2人とこれからする事を考えるだけで頭が痛くなる火乃花であった。
ともあれ、3人は魔商庁の玄関を入り受付に進む。
ここでは引率係として来ている青年が先導をきった。
「すいません。昨日連絡をした、見学の者を2人連れてきたんですが…。」
受付の人は青年の言葉でピンときたようだ。
「あぁ!聞いてますよー。確か…霧崎火乃花さんと、ルーチェ=ブラウニーさんですよねー。今からお呼びしますので、ちょっと待ってて下さいねー。」
青年はほっとした様子で頭を下げると、火乃花とルーチェの下に戻ってくると口を開く。
「本当に火日人さんって顔がききますよね。娘を見学させたいってだけで、本当に実現しちゃうんですから。」
引率という、青年にとっての大役から間も無く解放されるのが嬉しいのか、声が弾んでいる。
「あんたねぇ…。」
呆れる火乃花。
場をわきまえろと言った本人がこれだけら頭が痛い。
(執行部って…本当にエリートの集りなのかしらね。)
ルーチェは相変わらず辺りをキョロキョロ見回している。普段から比べると大分落ち着きがないが…火乃花はエンドレスボケタイムに入るのが怖いので、突っ込むのを諦めた。
ピンポーン
火乃花達の前方にあるエレベーターが到着の音を響かせてドアを開ける。そこから出てきたのは、ビシッとスーツを着こなした男性だった。




