9-3-60.闇と実験
「それはそ……だが。だから…って…う?」
覚醒しかけたレイラの意識に誰かの話し声が聞こえてくる。白衣の男や、銀髪の男(…確かセフと呼ばれていただろうか?)ではなく女性のものだ。
「ふん。だからそれでは計画通りに行かないだろう。」
続いて聞こえたのは…恐らくセフ。
目を開けずに2人の会話を聞こうと思ったのだが、セフの言葉以降沈黙が続いている。
レイラは気を失う前に見たものをぼんやりと思い出していた。
(あれって…犬だったよね。でも、顔は犬だったんだけど、胴体がなんか不自然だった気がするな。)
「…分かった。そんな強引な方法だと他に何を引っ張り込むか分からないが、言われた通りにやってみる。」
女性の声だ。何かを命令されていたのか。ただ、話し方のニュアンスからは不承不承引き受けている感が否めない。
そんな分析をするレイラの耳に、足音とドアが開閉する音が聞こえてきた。
そこから続く沈黙。
「おい、娘。起きてるのだろう?」
セフがレイラに声を掛ける。その冷たい、感情の籠らない声が向けられると、嘘をつくと何をされるか分からないという気持ちになってしまう。
このまま気を失っているフリをするか。
素直に目を開けるか。
レイラは本能的に後者を選択する。
目を開けると、少し離れたところにセフが腕を組んで立っていた。
相変わらずその銀髪はとても綺麗で、レイラは目を奪われてしまう。
「なに人の顔をジロジロ見ている。…お前は自分の置かれている状況が分かっているのか?」
「分かってるけど…。」
レイラはセフの言葉で状況の再認識をする。しかし、恐怖よりも諦めの感情が勝っていた。
「意外に図太いのか?まぁいい。暫くはここで魔力を提供してもらわないといけないからな。」
「え…しばらくって…。」
レイラの問う様なセリフを聞き流すと、セフは怪しい笑みを残しながら、踵を返し部屋を出ていった。
(私…どうなっちゃうんだろ?)
不安な気持ちを抱えるレイラを他所に、再び装置が駆動音を響かせる。
「う…。」
腕から力が抜けて行く感覚にレイラは顔を顰める。前回よりも今回の方が苦痛を伴っている。…それだけ魔力がギリギリという証拠なのだろう。
レイラは深い眠りに着くように意識を手離した。




