9-3-57.闇と実験
普段のレイラだったら少し目線で追うことはあっても、尾行するという行動に繋がることはなかっただろう。しかし、ギルドに入るという目標が胸の内にあったことが、いつも以上に彼女を行動的にさせていた。
レイラは何気無い顔でチラチラと視線を送りながら、見失わない程度の距離を保ちつつ男を追跡する。
(人が多いから…見失っちゃいそうだなぁ。)
背が低いレイラにとって人混みはもはや壁でしかなかった。人混みを出来るだけ避け、隙間から様子を伺いながらもギリギリで追跡を続けて行く。
何度か見失う場面もあったが、偶然にも男が何かを見て立ち止まっていたりしていたお陰で、直ぐに見つけることができたのは幸運と言うべきか。
レイラは追跡を続けながら男に対して感じた「怪しさ」について考えていた。
(それにしても…なんで怪しいって思ったんだろ。こうしてると普通に魔法協会に用事がある人にしか見えないなぁ。私の思い違いだったのかな…?)
男の姿を追う事に精一杯になっていると、気づけばひと気の無い場所に来ていた。
(この先って何があるのかな。)
そんな疑問を抱きながらも、レイラは気づかれないように尾行を続けて行く。男は何か目的があるのか、足取りに迷いは感じられない。
男が角を曲がり、レイラも曲がるとそこに男の姿はなかった。
「あれ?」
思わず首を傾げてしまう。
曲がった先は一本道の通路。部屋に入るドアも無ければ、別の通路がある訳でもない。しかし、男の姿は完全に消えていた。
(何処かに魔法でも使って隠れてるのかな?)
レイラは辺りを注意深く観察しながら歩く。
「ん?」
すると、壁と床の間から一瞬ではあるが…光が漏れた。
(この壁の裏側に何かあるのかな?)
レイラはそっと壁に手を触れてみるが、、何ら周りの壁との違いは感じることが出来ない。押しても当然の如く壁は微動だにしない。
ノックをしてみるが中から反応はない。
(あ、実はアレだったりして。)
レイラは小さめの声で口を開く。
「開けゴマ!」
…状況に変化なし。
「あーあ。やっぱし探偵の真似事しても無理に決まってるよね。」
レイラは180度向きを変えると壁に寄り掛かる。
そのまま他に開ける方法を考えるが特に案が出て来ることは無かった。
(帰ろうかな。龍人君にギルドの話でも聞いて、事前勉強しなきゃ。…あ、さっきのノックで指擦りむいてる。強くノックしすぎたかな。)
レイラは治癒魔法で擦りむいた指を治す。そして、帰ろうとした時だった。突然、背中の壁の感触が消え、レイラは後ろ向きに倒れてしまう。
「いたたたた…あれ?」
起き上がり、周りを見たレイラは首を傾げる。目の前には壁。後ろには下り階段。
(…え?もしかして、壁をすり抜けちゃったのかな?)
目の前の壁は先程と変わらず動くことはなく、選択肢は後ろの階段を進むのみに限られてしまう。
(出れないし…行くしかないよね?)
レイラは嫌な予感に支配されていた。階段の先に何か良くないものが待ち受けている予感。しかし、現場では階段を降りる以外に選択肢が無い。レイラは足音を抑えながら、慎重に階段を降り始めた。




