9-3-55.闇と実験
ぴちょん
ピチョン
レイラは薄い意識の中で水が滴る音を知覚する。
(あれ。水道の蛇口をちゃんと閉めてなかったのかな?)
重い瞼をゆっくり上げる。目に飛び込んで来たのは、白の壁だった。壁だけではない。部屋の中は白一色で埋め尽くされていた。
(ここ、どこだろ?私なんでこんな所にいるのかな?)
起き上がろうとしたレイラはここで異変に気づく。
ジャラ
金属の音。そして両手両足の違和感。
「…え?」
レイラの手足には鎖がはめられていた。全く動けないという訳ではなく、ある程度の自由は確保されているが…ベッドの上から動くことは出来そうにない。
「うそ…なんで?…怖いよ。」
レイラは無属性衝撃波を放とうとするが、魔力は集中させたそばから霧散してしまう。
何度、何度魔法を発動させようとしても発動する事が出来ない。
魔力を集中する度に手足の鎖から広がる不快感。
(きっと…この鎖が魔法を使うのを邪魔してるんだ…。何で私がこんな目に…。)
魔法での脱出を諦め、脱力感に襲われながら天井をぼうっと見つめるレイラ。
その後も何度か脱出を試みるが、魔法を使うことが出来ない上に、女性の力ではとても壊す事の出来ない鎖を攻略する事は出来なかった。
肉体的な疲労もあるが、精神的な疲労が段々レイラを追い詰めていく。
そうして1時間程経った頃…。
カツン カツン カツンと足音が聞こえてきた。
今まで無かった音の登場により、レイラはまどろみかけていた意識を覚醒させる。
「すいませーん!助けて下さい!」
必死に大声を出す。返事は返ってこないが、確実に足音は近づいて来る。それはドアの前で止まる。
コンコン
「失礼する。」
何故かノックをして入ってきたのは、白衣を着た男性だった。
「あの…この鎖を外してくれませんか?」
レイラの言葉が聞こえていないのか、聞いていないのか。その男は顎に手を当てるとレイラをジロジロと眺め始めた。
「ふむ。魔力の総量は一般的なそれを上回ってそうだな。検査するよりも、実際に抜き取った方が早いか。セフ、何かあったら困る。この娘を見張っていてくれ。」
「あぁ。」
白衣の男の声に答えたのは銀髪の長い髪を垂らした男だった。部屋の隅に腕を組んで、もたれかかっている。
(え?さっきまで居なかったのに。いつ部屋に入ったんだろ?それにしても…綺麗な髪だなぁ。)
レイラがやや見惚れながら眺めていると、顔を上げた銀髪の男と目が合う。漆黒の瞳…それに見据えられた瞬間、レイラは呑み込まれてしまいそうな感覚に襲われた。
そのままレイラという存在が引き込まれてしまいそうな感覚。恐怖と表現が出来るほどのものだった。
レイラは視線を外すことが出来なくなってしまうが、少しすると銀髪の男が顔を伏せる。男の瞳から解放されたレイラは全身の緊張を解く。
(なんだったんだろ今の…。あんなに怖い目は見た事がないな…。)
銀髪の男に気を取られていると、いきなり腕にベトっとしたものが巻きつく。
「きゃっ!」
ビックリして声を上げながら見ると、ゼリー状の細長い物体がレイラの腕に巻きついていた。
その細長い物体は白衣の男の近くにある何かの装置に繋がれている。
「な…何をするんですか!?これを取ってください!」
レイラは強気に反応するが、白衣の男は全く動じる気配がない。
「ふふふ。これからツラいだろうけど、頑張ってくれたまえ。」
白衣の男は薄い笑いを浮かべながら装置のスイッチをONにした。




