9-3-52.闇と実験
龍人の視界が少し暗くなる。誰かの…いや、ドレッサーの影が掛かっているに違いない。
「くっ。」
龍人はあらん限りの力を振り絞って立ち上がろうとした。しつこいようであるが、貞操の危機である。
その時だった、ふわりと何かが龍人の頭に乗る。
物、では無い何か。硬さはなく柔らかさをイメージさせるもの。中心から5つの細い、伸びた何か。それは龍人の頭の方へと曲がり…掴んだ。それは紛れもなく、手だった。もちろん、その手の持ち主はドレッサー。龍人の頭を掴む手は痛みを感じさせない程度の力加減だった。かといって、それを振りほどく事を許さない圧力も兼ね備えていた。
「龍人ちゃぁん?ラルフちゃんがああ言ってるし、容赦無く食べさせてもらうわねん。大丈夫!死なない程度に手加減はしてあげるからん。じゃ、行くわよん!」
「いや…ちょっと待っ…!!!」
全力拒否の台詞を吐こうとした龍人の頭を激痛が襲う。激痛をもたらした手によって龍人は立たされた。目の前にはもちろん、ドレッサー。彼…彼女?の後ろではラルフがホッとした顔で笑いを堪えている。
そして、気づいた時には龍人の唇はドレッサーによって塞がれていた。
ここから先に龍人に起きた事は想像に任せよう。
敢えて言うならば、不本意な形で大人の世界を体験したという事だ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
龍人が再び床に伏している横で、ドレッサーとラルフは椅子に座って向かい合っていた。
「…なるほどねん。それにしても、真極属性【龍】だなんて。そんなイレギュラーな属性が存在してるって知れたら、魔法街で龍人ちゃんの争奪戦が引き起こされかねないわねん。で、その属性について調べたいのは分かったんだけどん、私は何をすればいいのかしらぁん?」
人差し指を口元に当ててクネるドレッサー、ラルフは勿論、気にしない。
「ん~、1番知りたいのは、その属性特有の特徴なんだけどよ。魔法街にも何人か存在する展開型魔法陣に加えて、龍人特有の構築型魔法陣の2つの特徴はわかってるんだ。ただ、決定的な攻撃力に劣るんだよなぁ。多分、他にも固有の特徴があるとは思うんだが、流石に俺の知識じゃさっぱり分かんねぇから、龍人が昔から持ってる武器を見てもらいたいんだな。お代は…さっきので勘弁してやってくんねーか?流石に龍人が精神崩壊しちまいそうだし。」
「あらん。ラルフちゃんの体を私に捧げてくれてもいいのよん?肉感最高だから益々興奮しちゃうわワタシィ。」
「謹んでお断りします。」
「…つれないのねん。ま、いいわん。龍人ちゃぁん、早く武器を出さないとまた食べるわよん?」
龍人の体がビクッと反応する。さっきまで倒れていたのが嘘のように跳ね起きると、魔法陣を展開。そこに手を突っ込んで武器を取り出した。
以前、火乃花やレイラに見せた、蛇が3匹絡まった様な造形をした剣だ。
龍人からその剣を受け取ったドレッサーは、珍しい物でも見るように繁々と眺める。
「これは…始めて見るわねん。多分、人為的に作られた武器ではないわよ。恐らく…幻創武器の1つじゃないかしら?」
「げんそう武器?」
「あら、知らないの?ラルフちゃん…授業サボってるんじゃないの?」
ドレッサーに避難の目で見られたラルフは「イヤイヤ」といった風に手を振る。
「それは夏休み明けの後期で取り上げる予定だったんだよ。そういうイレギュラーな存在について最初から話してもしょうがないだろ?」
「ほんとぉ?忘れてただけじゃないのん?どーせ巨乳な女の子をいじくり回すのが楽しくなっちゃってるんでしょぉ?」
「それは誤解…おい龍人!何故俺から目を逸らす!?」
ジトーっとしたドレッサーの目線に耐えられなくなったラルフは、苦し紛れではあるが話題を本線に戻そうとする。
「と、取り敢えずだ、その武器の名前分からないか?龍人が昔から持ってるその武器の名前が分かれば、何かを掴むきっかけになるかもしんないだろ?」
「ふぅん。そぉやって話題を逸らすのねぇん。もっとイジメて楽しみたいけど、今は乗ったげるわん。ちょっと調べるから待っててねん。」
ドレッサーは龍人の剣を作業台の上に乗せる。そして、魔力を集中させて光り始めた両手を剣の上に翳すと、剣が光に包まれて文字…記号だろうか。それらが辺りに漂い始める。




