2-7-28.授業 魔法学
上位クラスの生徒がラルフが来るのを待って教室で騒いでる頃、そのラルフは校長室にいた。
深刻な顔のラルフが溜息をつく。
「このままだと、先を越されてしまいますね。」
「そうじゃの。まずは第8師団なのである。」
「でも、この時期に言うのもなんですが、まだ候補すら決まっていませんよ。ぶっちゃけ、実力的に候補になりそうな奴はいますが…まだまだひよっこちゃんですし。」
ヘヴィー校長はほっほっほっと笑う。
「大丈夫なのである。このプランでいくのである。」
ヘヴィーが杖を振ると、立体図が浮かび上がった。その内容を見たラルフは思わず手を顎に当てて考えるポーズを取ってしまう。
「校長…これは、まだ早いんじゃないですかね?」
「いいのである。事態は急を要するのである。ここである程度は見極めるのじゃ。」
思った以上の強行案に再び溜息をつくラルフ。
「はぁ。まぁいずれやる事ですけどね。あまり早くにやってしまうと、上位クラスはいいにしても、中位クラス以下の効果が薄くなりますよ。」
「ふむ、それならばあれと組み合わせるのである。」
校長が再び杖を振ると、立体図の上に文字が浮かび上がった。
「校長、実施するのが2ヶ月遅くなった位じゃ…いや、そこまでにはある程度の差が出てますか。むしろ、出ていなければ未来がないか。こりゃあ…これからが益々忙しくなりますね。」
「あら、いいじゃない。私はイジメまくるの好きよ。」
会話に参加してきたのは、校長とラルフの後ろで壁にもたれ掛かっていた女性である。長い金髪を夜会巻きにし、赤い縁のメガネを掛けた美人だ。
「おいおい、キャサリン。お前のしごきは地獄だぞ。それなのに生徒に大人気ってのがホント分かんないよなぁ。」
「あら、そんなの決まってるじゃない。あなたにはないカリスマがあるのよ。セクハラもしないしね。」
「じゃあ、プロポーション抜群のキャサリンの身体を俺に差し出すんだな。そしたらセクハラ止めるかもしんない。」
「あんた、アホね。別に私はラルフが生徒達の人気者になってもならなくてもどっちでもいいわ。それなのに身体を差し出すなんて無駄じゃない。」
「ほぉほぉ。同僚の俺の事をもう少し気にしてくれても良いんじゃないか?揉むぞ?」
「また意味の分からない事を…。」
ラルフとキャサリンの言い合いが始まるが、ヘヴィーは笑って聞くだけだ。
しばらくして、女性の叫び声と、何かが激突する音が校長室から響いたのだった。
そんな中でも「ほっほっほっ。」と笑うヘヴィーを見ると、恐らくこれが日常なのだろう。戯れるラルフとキャサリンを見ながらヘヴィーは思考を巡らせる。
(奴らが活動を活発にし始めている以上、こちらもゆっくりはしていられないのである。先ずは今後を見据えて起こりうる事態を体験させるのである。…戦争、彼らは何を思うのであるかな。)
そんな事を考えるヘヴィーを余所に、2人の教師の戯れはヒートアップしていき、遂に轟音が校長室の中に鳴り響いたのだった。