9-3-50.闇と実験
訓練室を出たラルフは転移魔法発動の準備をしながら龍人を振り返る。
「龍人。ある程度の事は覚悟しといてくれよ?」
「え…。どーゆー意味っすか?」
「まぁ、可愛い女の子が一杯居て誰にしようか決めらんなぁい!って感じではないな!」
途中で女子高生風の口調になったのは、きっとわざとだろう。わざとであって欲しい。
「いやいや、全然分かんないし。」
一応ラルフは教師なので、少しは敬語っぽく話そうと頑張っていたのだが…面倒臭くなってきた龍人。
「ま、行けばわかる!じゃー行くぞー?夢の園へー!」
謎のセリフを言いながら龍人の肩に手をポンと置いてラルフは転移魔法を発動させた。
転移の光が落ち着き、龍人の目に飛び込んできたのは…見たことのある店構えだった。
その店の名は、MagicShop男女男女。
龍人にとって…いや、訪れたほぼ全ての男性にとって忌まわしき地となる場所だった。
「げっ。詳しい奴ってドレッサーの事か!?…俺は帰る!」
龍人は速攻で転移魔法を発動。光に包まれて消えた所で、再び光に包まれて現れる。「あれ?」とやや挙動不審に陥る龍人。
ラルフはニヤリと笑みを浮かべる。
「次元属性のスペシャリストから転移魔法で逃げられる訳ないだろ?転移する空間を捻じ曲げれば、転移する先がズレて同じ場所に戻ってくるってワケだな。」
「いや、ちょっとマジで勘弁してくれ!俺はこの店には絶対に入りたくない!」
「大丈夫だ!こんな事で婿に行けなくなる事は無い!」
「そーゆー事じゃなくて!」
逃げ腰の龍人の前でラルフが転移。そして龍人のすぐ後ろに現れ、首根っこを掴んだ。
「よし、これで逃げられないぞ。じゃー行くか!」
「マジで…?」
「大真面目だ!」
ラルフに引きずられながら龍人は魔の巣窟?へと再び足を踏み入れたのだった。
…店に入るなりソレは現れた。
「あらぁん!あなた、また来たのねぇん!しかもしかもしかもぉ、ラルフまできちゃってぇん!なにななによぉ!?これからいい事が起きるわけぇん?」
クネクネしながらソレ…ドレッサー=アダルツは龍人とラルフに急速接近してくる。
ラルフは片手を上げ返事を返す。
「よっ。久しぶりだな。今日は店じゃなくて、ドレッサーさんに用事があって来たんだが…ちっと早かったかな?」
「あらん。そうなのねん。愛しの恋人ラルフちゃんの頼みならすぐにでも聞いてあげたいんだけどぉー。お客さんを追い出すわけにもいかないのよぉん☆」
何やら誤解を招きそうなドレッサーの台詞をスルーして、ラルフは店の中を見回す。相変わらず女性客が大半を占め、数少ない男性客は顔から精気が失われている。
「そうだよな。いきなり来ちまったし。」
困った様に頭を掻くラルフを見てドレッサーは再びクネクネ動き出す。
「あぁ!そんな悩ましいラルフちゃんの顔もそそられるわぁん!んー、じゃあ、いつもの部屋で待っててもらえるかしらん?出来たら少し早めに店を閉めるわねん。いつも通り自由に使ってていいわよん。」
「お、助かるよ。のんびり待ってるから、あんま気にすんなよー。よし、龍人行くぞ?」
ラルフは店の奥へと歩き始めた。




