9-3-47.闇と実験
火日人は火乃花とルーチェに視線を戻すと、2枚のカードを前に置いた。
「という訳だ。各庁などの行政区の建物でアクセス制限のかかっているドアを通るためのセキュリティカードだ。くれぐれも無くさないでくれよ?」
2人はカードを受け取ると、真剣な表情で頷く。火日人がこのカードを渡した決意を目の前で聞いてしまったのだ。身が引き締まる思いとは正しくこの事。
火日人は2人の様子を少しの間無言で眺めると、口の端を少し上げて立ち上がった。
「では、私はこれで失礼する。君、後の細かい説明は頼んだよ。」
「はっ、はい!お任せください!」
声をかけられた事務局の青年は慌てて立ち上がると、火日人に向かって90度のお辞儀を披露する。
軽く手を上げながら小会議室を出て行った火日人の後ろ姿がドアで見えなくなると、青年は疲れた様にガタンと椅子に座り込んだ。青年の口から思わず本音が漏れる。
「はぁ。本当に心臓に悪い。」
「お疲れ様ですの。」
「ってか、ルーチェ。あんた本当に肝っ玉が座ってるわよね。」
「そうですか?私は必要な事を申し上げただけですわよ?」
「…そう考えられる所が凄いわよ。」
呆れた表情の火乃花と、首を傾げるルーチェ。
2人の様子を見ていた青年は、早く休みたいと言わんばかりに会話に割り込んだ。
「あっと、えー、では、その他の細かい部分について報告しますね。主にラーバル=クリプトンについての調査報告なので、この情報を元に色々調べて貰えればいいかと思います。」
青年は分厚い紙の束を2人の前にドサリと置いた。
「げっ。」
「あらまぁ、大量ですわね。」
ここから約3時間に渡る報告会が始まったのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はぁ!?来てないのか!?」
魔法の台所に龍人の声が響く。
カウンターに両手をついて龍人が怪訝な顔を向けるのは、シェフズ=ソーサリだ。
「そうなんだよ。この前の魔獣事件以降、パッタリ店に来なくなっちまったんだ。てっきり怪我でもして休んでるのかと思ってたんだが…。お前がが何も知らないってなると、そうでもなさそうだな。」
「マジか。レイラの姿をここ1週間見てないから、何かあったのかと思って家に行ったんだけどさ、いないからバイトでこの店に居るのかと思って来たんだけど…。」
「龍人、お前レイラの家に行ってたのか。知らない間にそんな関係に…」
「アホか!」
龍人がツッコミを入れる。
「はっはっはっ!悪りい悪りい。まぁふざけてる状況でも無さそうだな。龍人の友達で何か知ってる奴はいないのか?」
「居たらここには来てないって。ホントに心配になってきたな…。」
龍人とシェフズが「ん~」と考え込み始めそうになった時に、魔法の台所の店内に転移の光が現れる。その中から出てきたのは、街立魔法学院の名物変態教師ラルフ=ローゼスだ。
「よぉ!龍人。シェフズの店に居たとはな。ちっと話したい事があるから、一緒に来てもらってもいいか?」
然程焦った様子でもなく、いつも通りの調子のラルフ。ここから予想されるに、レイラ関係の話ではなさそうだ。ならば、敢えて転移で探しに来る事から予想するに…。
「もしかして、あの話題っすか?」
「察しがいいな。その通りだ。行くぞ?」
「分かった。じゃあシェフズ、何か分かったら教えてくれ。」
「もちろんだ。」
ラルフ、シェフズ共に相手型の話題を掴み切れて無いようだが、龍人はお構いなくラルフに転移を促す。
「はいはいよっと。」
ラルフは軽い返事とともに、龍人を連れて転移魔法を発動した。




