9-3-46.闇と実験
「この調査を受けるにあたって、私からお願いしたい条件があるのですわ。むしろ、この条件を受け入れていただけない場合は、私は調査をお断りさせて頂きますの。」
ルーチェの大胆な発言。事務局の青年による顔芸は一層激しさを増し、火乃花も「マジ?」な表情でルーチェをみる。
ルーチェは真っ直ぐ火日人の目を直視し、火日人は落ち着いた雰囲気のまま無言で先を促す。
「この調査をするに当たって、各庁を自由に出入り出来る様にして欲しいのですわ。長官クラスじゃないと入れない所以外は全て入れるようにならないと、ラーバルさんを調べるのは不可能だと思うのです。もし可能なら長官クラスしか入れない所にも入れるようにして欲しいのです。」
「ふふ。はっはっはっ!」
火日人が突然笑い出す。
事務局の青年は驚き系の顔芸に変化、火乃花も父親が笑うところは余り見た事が無かったので、珍しいものを見ているかの反応だ。ルーチェは「ん?」と首を傾げている。
一頻り笑うと火日人は楽しそうに話し出した。
「ルーチェ君は本当に面白いな。行政区の執行役員である私に条件を出して、しかもその条件が私なら可能なものをしっかりと選んでくるんだからな。火乃花よ、ルーチェ君の大胆さは見習った方がいいぞ。」
「え…。あ、はい。」
まさか自分に話が飛んでくるとは思っていなかった火乃花は曖昧な返事を返す。が、火日人は特に気にはしていないのか話を続ける。
「ルーチェ君、その条件は受け入れよう。まぁ、元々それ位は出来る様にするつもりだったんだがな。残念だが長官クラスのアクセス権限を教えるのは難しいが、特別に副長官クラスのアクセス権限を教える。」
副長官クラス。その言葉に事務局の青年が思わず立ち上がる。
「霧崎執行役員…!いくらなんでもそんな事が認められるとは…。」
火日人は青年に手を翳し言葉の先を言うことを許さない。
「君、これは私の決定だ。分かるかな?行政区執行役員が決めたことだ。これに関連して何かが起きた場合、全ての責任は私が取る。異論は許さない。」
逆らうことを許さない火日人の台詞に事務局の青年は口を閉じ、再び椅子に座った。悔しさ、そして口答えをしようとしてしまった自身の愚かさが彼を蝕んでいるのか、唇を強く噛み、下を向いてしまっている。




