9-3-44.闇と実験
火日人の落ち着いた雰囲気が小会議室の中を支配する。シンと静まった中で、火日人は静かに話を始めた。
「まず、魔獣事件について話そうか。君達には南区における動物の輸入量の増加について調べてもらった訳だが、大方その方向性は間違っていなかったと考えるのが妥当だろう。魔法を使う動物が自然に生まれるという事は、もしかしたら突然変異としてあるかも知れない。だが、それが複数同時に…しかも3回連続でいきなり出現するのは、誰かが裏で糸を引いているのは間違いがない。つまりだ、中央区から南区に輸出された行き先不明の動物達は、何かしらの実験で使われ、そこで魔法を
使う動物…魔獣として生み出されていると我々は推測している。」
「ちょっと待って欲しいのですわ。」
ここで火日人の話を区切ったのはルーチェだ。
「今の話の流れですと、南区で動物を使った非道な実験が行われている事になりますわ。しかも、私達が調べた限りで数百頭の動物が行先不明なのですわ。そんな実験が誰にもバレずに行われるなんて事があるとは思えませんの。」
ルーチェの指摘は最もである。数百頭の動物を使った実験を行うには、それ相応のスペースが必要となってくる。そして、そんな大きさを誇る建物は南区に街立魔法学院しか存在しないのだ。もしも、そこで実験が行われていたのだとしたら…しかもそれが魔法を使う獣、つまり魔獣を生み出す実験だとしたら…魔力反応によって探知される筈なのである。
ルーチェの指摘を推測していたのか、火日人は特に態度を変えることなく小さく頷く。
「動物の実験が行われていると決まった訳ではない。しかし、その可能性を十分に考慮する必要がある状況だということだ。そして、その実験が南区で行われている事を前提とした調査で、怪しい動きをしている行政区の高官を見つけた。2人にはその人物の動きを見張って欲しい。」
高官という言葉にルーチェの眉がピクリと反応し、火乃花は緊張した様子で拳を握り締める。




