9-3-43.闇と実験
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火乃花とルーチェは行政区の執行部にある小会議室に座っていた。2人の目の前に座っているのは、執行部事務局の青年だ。以前、火乃花とルーチェが執行部を出ようとした時に追いかけてきた青年である。因みに、何故か名前を名乗りたがらない。
そんな名前不詳の青年の雰囲気は前回よりも大分張り詰めたものとなっていた。青年は固い表情のまま報告を始める。
「まず報告しなければならない事があるんです。お2人と中央区で情報の交換をしに行った執行部の人間が…殺されました。」
「えっ!?」
「あらまぁですの。」
火乃花は驚いて思わず席を立ち上がり、ルーチェは口元に両手を当てる。
正反対の反応を見せた2人の様子を見て、青年は少しだけ笑みを浮かべるが、すぐに引き締めた表情へと戻す。
「そういう事情がありますので、今後の調査には十分注意して下さい。」
「ちょっと待って。私達と会った後に殺されたの?」
「それは分かりません。何か心当たりでもありますか?」
「…何でもないわ。」
火乃花の中途半端な態度に訝しげな表情を見せながらも、青年は話を続ける。
「執行部の人間が殺された事からして、行政区の内部に内通者が居ると推測されます。また、執行部の動きを把握出来るとなると、執行部内の人間か行政区でそれ相応の力を持った人間かと。南区での魔獣事件の事もありますし、余りあなた方2人を危ない目には合わせたくないのですが…。」
青年が少し悩む素振りを見せたところで小会議室のドアが開かれた。
「ここからは私から話そう。君からでは伝えにくい事もあるだろう。」
「霧崎執行役員!いえ、これは私の役目ですので!」
ドアから入ってきたのは、火乃花の父親である火日人だった。事務局の青年は慌てて立ち上がる。
そんな青年を見て、火日人は柔らかい笑みを浮かべた。
「いや、これは私からの頼みだ。直接伝えさせてもらっても良いかな?」
「あ…は、はい!かしこまりました!それでは私は…」
「君もそこに座っていてくれるかな?何か伝え忘れがあるといけないからね。」
「は、はい!」
火日人が隣に来たことでガチガチに緊張してしまった事務局の青年は、強張った顔で火日人の横に座る。
火日人は軽く息を付くと、火乃花とルーチェの顔を見た。




