9-3-40.闇と実験
魔獣事件から1週間後。
南区は勿論の事、魔法街全体が魔獣のニュースで持ちきりだった。
テレビを付ければ魔獣の話題がひっきりなしに流れている。
また、それに呼応する様に動物に対する残虐な事件も増えていった。動物を魔獣だと勝手に決めつけて殺害してしまう事件が多発。ペットとしての動物も全て検査され、怪しい所がある動物は全て処分された。
魔獣事件の主犯格も全く手掛かりが無く、事件の捜査は全く進展が見られない。街の人々は日々の生活で不安を抱え続け、捜査に当たっている人々はイライラを募らせていた。
そんな不穏な空気が抜け切らない魔法街南区は、それでも夏休みという期間中である事に変わりは無い。
街立魔法学院の生徒の殆どは、遊びとバイトに忙しい夏休みを事件前よりは少しだけ控えめに満喫していた。
そんな状況な為、学院に足を運ぶ生徒は殆ど居ない。
その閑散とした学院を歩く1人の青年がいた。街立魔法学院4年生、ルフト=レーレだ。気楽な様子でのんびりと歩を進める姿は、さながらモデルの様な出で立ちだ。ここに女子生徒達が居れば大騒ぎになっているであろうレベルのカリスマ性を備えている。
ルフトは教師校舎へ入って行く。廊下を歩き、目指す先は教師校舎訓練室だ。訓練室のドアをノックもせずに開け中に入ると、ルフトを待っていたのはラルフだった。
「よぉ、ルフト!久しぶりだな。」
右手を上げて挨拶をするラルフをやや面倒臭そうに見たルフト。
「俺をわざわざ呼び出すなんて何の用っすか?ま、大方予想は付きますけどねん。」
ルフトはあくまでも軽いノリを崩さない。
「まぁ、お前の予想通りだとは思うが。本当は事件後すぐに聞きたかったんだが、ドタバタしてたし街魔通りの修復も重なっちまったからな。でだ、あの獣の消え方…どう思う?」
ラルフはいつに無く真剣な様子だ。
「そうっすね…。あの霧になる消え方が気になるんすよ。…クリスタルが属性を表す時に霧になって文字を形成するのにそっくりかなって思います。」
「やっぱりルフトもそう思うか。俺の予想が正しいと…。」
その後、約30分に渡って話し込んだ2人は訓練室を後にする。
別れ際にラルフがルフトへ声を掛けた。
「あ!ルフト。聞き忘れてたわ。お前〈達〉は動くのか?」
「いやー分かんないですね。まだ要請は来てないんで、纏まって動く事はないかもっす。ま、俺は派手にならない程度に動きますけど。」
「…そうか。わかったわ。気をつけるんだぞ?」
ルフトは両手を頭の後ろに組むと、二カッと笑う。
「誰に言ってるんすかー。街立魔法学院のTOPに油断はナッシング!」
爽やかに言い残し、手をヒラヒラ振りながら歩き去るルフト。その後ろ姿を見送るラルフはあくまでも真剣な表情のままだ。
「さてと。後は龍人だな。」
ラルフはフッと表情を和らげると眠そうに欠伸をしながら職員室へと入って行った。
街立魔法学院の別の場所では…。
ルフト以外にも閑散とした街立魔法学院教師校舎を訪れた生徒が居た。その生徒は、とある部屋をノックする。




