9-3-34.闇と実験
龍人、遼、ルーチェ、火乃花は霧となって霧散していく熊の姿を驚きの表情で見つめていた。後に残ったのは遮断壁のみ。もはやそれは何も防ぐ事なく、そこに佇むのみだ。
龍人がラルフに問う。
「どういう事だよ?なんで霧にって消えちまったんだ?」
ラルフは目を閉じて頭を振る。
「わからん。それに…今はここでゆっくりしてる場合じゃないだろ?」
ラルフの言葉で、北側でもう1度爆発があった事を思い出す4人。
その様子を見て笑みをこぼすラルフ。
「ホントお前ら呑気だな。行くぞ?」
そう言って駆け出すラルフ。
龍人達4人も慌ててラルフの後を追いかける。
街魔通りを北に向かって走る中、火乃花はクマが消えた時の光景を思い出していた。
(あの霧になって消えていく感じ…どこかで見た事がある気がするのよね。しかも何回か見た事があるような…。んー、思い出せないわ。)
隣を走るルーチェも何かを考えているのか、難しい顔だ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ラルフ達が向かう北側では、倒れたはずの猪が全力で暴れまわっていた。
猪が辺りに飛ばしまくる風刃。その量が半端なく、風刃によって引き起こされる風が台風の様に吹き荒れる。
圧縮した空気の鞭で風刃を次々と叩き落すルフトは苦笑いを浮かべていた。
「いやー、さっきので完全に倒したと思ってたんだけどなぁー。気絶してただけだったとはね!怒った猪って怖い怖い。ははっ。すっげー!」
猪からしてみたら、怒りに任せて全力での魔法による攻撃なのだが、それを爽やかに笑いながら捌くルフト。そんな彼の周りには、猪の風刃によって負傷した魔法使い達が集まっていた。
(んー、にしてもこの猛攻からこの人達を護って、尚且つ猪をぶっ倒すのは難しいなぁ。)
ルフトはチラリと横目でバルクの姿を確認する。バルクの方も怒り狂った猪が引き起こす地面の連続した隆起に翻弄されていた。
「ぬぁぁあおおおお!」
気合の様な叫び声を上げながら、バルクは突き上がった地面に跳ね飛ばされる。
空中で態勢を整えて着地したバルクのすぐ横で再び地面が突き上がる。
猪の周辺は絶え間無く地面が突き上がり続け、それ自体に規則性が見えない為に、更に回避を困難とさせていた。
「くっそー埒があかねぇ!っとっわっとっっ!」
魔法を発動しようとする矢先に再び足元の地面に跳ね上げられるバルク。先程からこのループを繰り返している。
空中をクルクル回って飛ばされながら、バルクはふと、小さな疑問を胸に抱く。
(そーいや、なんでこんなに魔法を乱発出来んのに、さっきはやんなかったんだ?怒ってるから。って片付けるには度が過ぎてんだよな。なんか、性格が変わっちまったみたいだわ。)
考え事に耽ってしまったバルクは、建物の屋根に頭から墜落する。
「ぶへっ!…………!あ、あ、頭が抜けねぇぇぇぇぇぇ!」
バルクの叫び声は虚しくも、地面が隆起する音と、風が荒れ狂う音に掻き消された。




