9-3-29.闇と実験
バルクは先程と同じく、拳を後ろに引いた状態で待ち構える。
「うおりゃ!」
気合いの掛け声と共に、全身を使って身体を捻りながら拳を地面に叩きつけた。
地面に魔力が伝達、猪の前脚部分が隆起し、後脚部分が陥没。そこに猪がスッポリとハマる。…予定だったのだが。
猪は前脚部分の地面が隆起する直前に跳躍をする。
「…は?」
地面に着地した猪の後ろで隆起と陥没が発生してしまう。
(おいおい。なんで動物の癖に魔法が発生する地点が分かるんだよ…?…もう一度だ!)
着地した猪は何故か動きを止めている。バルクはもう一度拳を地面に叩きつける動作に入る。
その動作に合わせる様に猪は突然前脚を高々と上げ、地面を踏み抜いた。
「…っ!?」
バルクはここで引き起こされる現象に言葉を発することができない。バルクの放った属性魔法が、猪が地面を踏み抜いた時に放った属性魔法に打ち消されてしまったのだ。そして、猪の属性魔法が引き起こしたのは、地面の粉砕だった。
猪を中心に円状に地面が割れて行く。割れた地面は波の様にうねり、周囲を呑み込んでいく。
「ブオオオォ!」
一際大きな声で猪が雄叫びを発すると、衝撃波が発生。瓦礫と化した地面や建物を吹き飛ばした。
「ぐっ…!」
衝撃波で吹き飛ばされたバルクは、なんとか着地をすると猪を睨みつける。
(さっき魔法が発動しなかったのは…多分豚っ鼻の魔力の方が高かったんだろ?ってことは、俺に勝ち目ねーじゃん!)
今ここで逃げるわけにはいかない。しかし、逃げずに戦ったとしても結果が見えてしまっている。
「くそっ!」
バルクはどうすれば良いのか分からなくなっていた。今まで、全く歯が立たない相手に出会ったことが無いのだ。そして、初めて出会った状況が状況である。
猪はまだ倒れないバルクを見ると、イラついた様に頭を振り回す。
「ブオオオォ!ブヒッブヒッ!」
激しく鼻を鳴らすと、身体の周りに風を発生させて纏う。
そして、蹴る地面を砕きながら宙へ飛び上がった。




