9-3-22.闇と実験
遼は某然と目を見開いたまま、襲いくる熊の手を見つめる。
「この…馬鹿!」
聞き慣れた友人…龍人の声が耳に飛び込んでくると同時に、遼は横からの衝撃に吹き飛ばされる。
「え…?」
痛みを感知する前に、遼は自身の居た場所を驚愕の目で見る。そこには離れた場所で熊に属性矢を放っていた龍人が居た。2頭の熊の突きを左右の手で1つずつ受け止めている。
「おい遼!お前の実力そんなもんじゃないだろ!ぐっ…。」
手の平に展開した防御壁が軋み始める。
(マズイ…!保たねぇ…。)
ピシィ!という音と共に防御壁にヒビが入る。
火乃花と熊を攻撃していたルーチェは、龍人の危機を察知して動き出す。
「火乃花さん!この熊は任せましたわ!」
「任せて!」
火乃花は特大の炎縄を出すと、しならせてクマの体に巻き付けた。
その横をルーチェがすり抜けて、龍人を助けるべく疾走する。
光魔法で刺叉を4本精製。龍人を挟む2頭の熊に向けて撃ち出した。
(これで動きを止めれば、なんとかなる筈ですわ!)
しかし、刺叉は2頭の熊には届かない。龍人が遼を助けに行く前に、属性矢を打ち込んでいた熊が立ちはだかったのだ。手の一薙ぎで刺叉は全て砕かれてしまう。
ルーチェは熊を避けて龍人の所へ向かおうとするが、熊が地面を殴り破片を飛ばす。破片の壁が迫る事で、ルーチェは移動を余儀無く中断させられてしまう。
そうしている内に、龍人の防御壁が砕ける。龍人は防御壁が砕ける瞬間に全力で後方に飛び退くが、避け切る事は能わず右脇腹に擦ってしまう。僅かに擦っただけだが、強烈な衝撃が右脇腹を襲い、龍人は地面を擦る様に転がった。
「か…かはっ…。」
脇腹への衝撃、地面に吹き飛んだ際の衝撃。立て続けにダメージを受けた事で、龍人は呼吸をする事が出来なくなってしまう。
火乃花は炎縄で熊を抑え、ルーチェと龍人との間には3匹の熊。
(今、龍人くんを助けられるのは遼くんしか居ませんわ!)
ルーチェは遼に向かって叫ぶ。




