2-2.クラス分け試験
岩山から離れた龍人は戦う相手を探して歩いていた。
特に気配を隠す事も主張する事もなく、本当にただ散歩をするかの如く歩いていた。
面倒な事が嫌いな龍人は、わざわざ相手を探すのが嫌だったので、偶然出くわした相手と戦う事にしたのだ。
やる気が無いと言えばそれまで。流れに身をまかせるスタイルである事は間違いがないだろう。
程なくして敵が現れる。
木の根っこを軽快に跳び越えた龍人は、突然背後に魔力を感じて後方を確認する。
その眼前には幾つもの風刃が迫っていた。
(ん。ギリギリか?)
風刃の群れが襲い掛かる衝撃に粉塵が舞い、辺りが砂煙に包まれた。
直撃必死のタイミングだった筈だが、至って落ち着いたままの龍人は、一瞬の内に展開した魔法壁で風の刃を防ぎ、更に探知型の結界を周囲に張り巡らせていた。
(あっちか。)
探知型結界を張り巡らせてすぐに、風刃の飛んで来た方向約50mの所に人を感知する。
身を隠して相手の虚をつく事も考えるが、龍人は敢えて正面からの突撃を選んだ。姿を隠しての魔法戦になると、勝敗が決するまでに時間が掛かる為だ。
龍人の性格上、それが必要不可欠な状況でない限り、そんな面倒な事はしないのだ。正面から堂々とぶつかって倒す。要は勝てれば良いのだ。
龍人は風を脚に纏わり付かせる事で移動力を向上させる。一歩一歩の踏み込みに風の力を乗せる事で加速し、探知結界が感知した方向に向けて一気にダッシュを開始した。
同時に攻撃魔法を発動する為に魔法陣を展開する。
(相手は風の魔法で攻撃してきたから…風の魔法でお返しするか。)
龍人は敵が隠れているであろう場所を目掛けて風刃を連射した。敢えて同じ魔法での攻撃。これは、風の魔法では負けないという挑戦状を兼ねてのものだ。
まぁ風属性の魔法が得意な属性という訳では無いのだが。
要は単なる負けず嫌いなのである。
相手の弱点属性で戦うのではなく、正面から同じ属性で正々堂々と戦う。余程追い詰められていない限り、龍人が良く選択する手法の1つだ。対等な条件で相手を下す。それを積み重ねる事で強くなれると考えいるのだ。
風の刃を放つのと同時に、正面に居た人の気配が動く。龍人の放った風刃が木々の奥に着弾し、先程と同じように粉塵が舞う。
だが、相手が倒れた気配は無く、相手の反応は先程よりも西の位置に移動していた。攻撃を避けて移動したのだろう。
龍人は反撃を警戒して新たな魔法の展開準備をする。すると、粉塵の向こうから呪文が聞こえてきた。
「数多の風の精霊よ。我、汝等に求む。我に従い、風の渦となり全てを呑み込め!」
敵の呪文詠唱が終わると、巨大な龍巻が天高く立ち昇り、龍人目掛け突き進んできた。中級レベルの魔法をいきなり放ってくる辺り、相手も相当レベルの魔法使いであることが予想される。
龍巻という強力な風魔法を放たれて、ピンチである筈の龍人は…余裕な表情を浮かべたまま分析をしていた。
(ふーん。あんな風に精霊に呼びかけるんだ。ちょっと一方的過ぎる気がすんな。)
呪文を唱えて魔法を発生させる場合、精霊への呼び掛けを行う事が多い。精霊の力を借りる事により、己自身の魔力の消費を抑える事ができるのだ。その精霊への呼び掛けは人によって異なり、威力や消費魔力が多少ではあるが増減する。
そんなウンチクを思い出しながら、龍人は襲い掛かる龍巻を見上げる。龍巻の威圧感は巨大で、近寄るもの全てを切り裂く力を持っているように見える。
対する龍人は、またもや同じ魔法で対抗する事を選択する。魔法陣が両の掌に展開され、そこから1つの龍巻が生み出される。
2人の魔法使いが放った龍巻は、互いに真っ直ぐ進み衝突した。空気の渦が乱れ狂い、辺りの木々を粉々に砕く。と、思いきや、2つの龍巻は反発する事もなく1つの龍巻へと合体した。龍巻は巨大さを増し、周辺にあるものを呑み込み、風の刃で切り刻み、砕く。
そして、縦長の胴体を少しずつ縮め、横へと広がっていく。
……
龍巻が消えた後、半径500m程の円状に全てが破壊し尽くされていた。木々の全てが薙ぎ倒され、吹き飛ばされ、剥き出しの土が荒々しく広がっている。
その中心に立つ龍人は小さな笑みを浮かべながら、近くに倒れている男に告げる。
「ま、こんなもんしょ。ちょいと小賢しい真似してごめんな。お陰様で楽に勝てたけどな。」
倒れた男は既に意識がなく、勝利者の言葉は耳に届かない。首輪から発した光が男の身体を包み込み、上空へと飛び去った。
龍人は光を見上げながら欠伸をすると、次なる相手を求めて歩き出した。
数分後、魔法によって破壊された緑が再生し…ジャングルは元の姿を取り戻す。
まずは1勝。である。