9-3-12.闇と実験
風は次第に勢いを増しながら、渦巻き始める。続いて風の渦は上昇を始め、上空50m程まで上がった。
無風となった地上では、スイが周りの人々と同じ様に上空の風渦を見上げていた。そこで、ある可能性に気づく。
「ちっ。間に合うか?」
スイが動き始める直前、風渦は急に鋭さを増し、大量の鎌鼬を発生。それが地上にいる人々へと降り注いだ。
咄嗟に手を上に挙げ、上方に可能な限り広範囲の魔法壁を発生させる。スイと同様に気づいた人々も上空に魔法壁を発生させた。
鎌鼬の着弾と同時に襲いかかる強い衝撃。
「くっ。一匹が使う魔力ではない!」
遠吠えを続ける風を纏う犬をチラリと見たスイは、背筋に冷たいモノが走る。
炎を纏う犬が、周囲に大量の炎の矢を発生させていたのだ。
「ぐぁん!」
しゃがれた声で犬が吠え、炎の矢が360度全方位へ飛ぶ。
それに気づいた誰もが息を飲み、被弾を覚悟した。
しかし、ガギィンという音と共に炎の矢は人々を護る様に現れた魔法壁により弾かれた。
「いやぁ、危ねぇ危ねえ。気づくのがあと少し遅かったら、魔法壁が間に合ってなかったわ。」
姿を現したのはラルフだ。周りを見渡し、誰にも被害が出ていないことを確認すると、犬を睨みつける。
「さて、と。この現実をどう受け入れていくかね。…まぁ取り敢えずは、こいつらを捕まえるか。」
ラルフは首を左右に倒し、ポキポキと骨を鳴らす。
「おーい。皆!こいつらを捕まえっから、魔法に自信のある奴だけ協力してくれ!」
続けてスイに声を掛ける。
「スイ。お前はあの水を操る奴を止めてくれ。得意な属性魔法だから、ある程度は対応出来るだろ?」
ラルフが現れた事で少し安堵をしながらも、スイは気を引き締め直す。
「ふむ。かしこまった。」
ラルフは軽く伸びをすると、ひと声叫ぶ。
「おし!行くぞ!」




