9-3-9.闇と実験
魔法の台所店内。
龍人と遼は一瞬伝わってきた揺れと、遠くで響く大きな音に動きを止めていた。
「遼…今のって絶対外で何かあったよな?」
「うん。多分南の方角だとは思うけど。」
「もしかしたら何かの事件かもしんないし、一応見に行くか。シェフズ!ちょっと出てくるぞ!?」
すると、店の奥からシェフズが慌ただしく走ってくる。
「ちょっと待てお前ら!俺が伝えたのを忘れたのか!?」
「あ…!」
シェフズの言葉で何かを思い出したのか、遼が動きを止める。
「ん?遼、どうしたんだよ?」
「前に、騒動が起きて店内が空になった時に盗難が起きてるって聞いたじゃん?今回もその可能性が無いかな?さっきの揺れと音は、大規模に盗みをする為の布石って考えることが出来るかも。」
「そうだ!いいかお前ら。事件の中心地に向かうんじゃなくて、その周りの店に入って行く不審人物を探す方に集中してくれ!」
雇い主であるシェフズに言われてしまうと、そう動かざるを得ない。龍人は少し抵抗をしてみる。
「でも、俺たちが行かないと今起きた爆発がまた起きる可能性ってのもあり得るよな?」
シェフズはドンっと自分の胸を叩く。
「なぁに言ってんだ!俺たちだって仮にも魔法学院の卒業生だぞ?ちょっとやそっとじゃやられねぇ!いいか。お前達はお前達にしか出来ない事をするんだ。今回が盗み目的じゃないならそれで良い。問題は盗みが目的だった場合だ。その場合の被害は甚大なものになる可能性があるだろ?最悪の事態を想定して動かないと、ギルドで仕事なんか出来ねぇぞ?」
「…っ。分かったよ。遼!行くぞ!」
「あ、うん!」
龍人と遼は、魔法の台所から走り出て行った。
1人店内に残ったシェフズは、2人の背中を見送ると小さく呟く。
「頼んだぞ。俺の予想が当たってれば、これは大事件になる…。」
斯くして、魔法街南区における1つの大きな事件が動き出した。




