9-3-8.闇と実験
硬直するスイは、ある一点を凝視していた。その視線の先にあるのは…床に落ちてグチャグチャに潰れてしまった羊羹だ。
強く握られた拳は小さく震え、まるで大事な人を目の前で失ったかの様に目を見開いて立ち竦む。
少しの間、そうして立っていたスイはゆらりと動き出す。
「…許さん。」
羊羹を愛する日本剣士は復讐の炎に燃え、店の外へと出て行った。
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大きな揺れと衝撃に、ラルフはネネの膝の上から転げ落ちる。
「いつつ…。なんだ?今の揺れ方…異常だな。」
「ご主人様…ねね怖いですぅ。」
ラルフは甘えてくるネネを手で止める。
「ちょっと待て。いくらなんでもオカシイ。そこの窓、開くよな?」
窓際に行き、外の様子を確認する。
「…おいおい。こりゃぁマズイな。ネネ、今日のお楽しみはお預けだわ。ちっとばかし出てくるわ。」
ラルフはそのまま転移魔法を使用する。
「あら。ラルフさんが珍しく焦ってたわね。」
ネネも窓際に移動して外を見る。
そこにあったのは、大きく陥没した地面。その中央には何かの生き物が数匹立っていた。
「…ある程度までは私の予想通りといった所かしら。ここからどうなるかが見ものね。」
ネネは口の片端を上げて笑みを浮かべる。
胸元から通信機器を取り出すと、誰かと話し始めたのだった。
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「ちょっと何よ今の揺れと爆音!」
ベンチから立ち上がった火乃花は、街魔通りの南を見る。僅かにだが、黒煙が上がっているのを見て取ることが出来る。
「これは、何かがありましたわね。火乃花さん、行きましょう。」
ルーチェはアイスの残りを口の中に入れると、立ち上がって歩き始めた。火乃花も慌ててルーチェを追う。事件が起きたというのに、ルーチェの歩く速度は通常通りのスピードである。そのゆっくりさに焦れる火乃花。
「ルーチェ、もう少し早く行かない?」
ルーチェは火乃花を見るとニッコリと微笑んだ。
「火乃花さん。こういう時に焦ってしまうと、大事な事を見落としますわよ。現状、殆どの人が南側に注目してますわ。私たちが少し遅く到着した位で、状況が大きく変わることはありませんの。それよりも、周囲の状況を把握して1番大事な事を見落とさないようにするのが大事ですわ。」
「う…分かったわよ。」
何故か諭されてしまった火乃花は、それでも納得は出来るので、周囲の観察を始める。
周りの人たちが慌ただしく動く中、ゆっくりと歩く火乃花とルーチェも事件現場へと進み始めた。




